太陽に向いて咲く | ナノ
太陽に向いて咲く


「ちょ、名前早く!もう試合始まってるから!」



愛ちゃんが階段の上から私に向かって叫ぶ。私は重いスポーツバッグ持ってをうんうん唸りながら階段を上った。愛ちゃん、恐るべき体力だ。階段を上りきるとそこはスタンドで急に視界が明るく開けた。太陽の光が肌にひりひりとしみる。



「おっ、苗字!こっちやこっち!」



見れば前園くんがこちらに手を振っている。わざわざ前園くんが私のために部員たちの後ろの席を取っておいてくれた。初戦なのにかなりの人だ。さすが強豪で甲子園出場候補の青道だけある。グラウンドを見下ろすと、打順は九番、なんてタイミングがいいんだろう。彼が打席に歩いていくのが見えた。闘志みなぎる背中だった。



「洋一、頑張れ!」



私は出せる限りの大きな声でそう叫んだ。すると、聞こえたのか彼がこちらをくるりと向いた。聞こえるだなんて思ってなくて私は思わず驚いてしまう。すると彼はにやりと笑って軽く手を挙げた。その途端「倉持テメエ真剣にやれ!」とベンチから罵声が飛んだ。わ、私のせいだ。



「来週が初戦だから見に来てほしい。お前も練習が忙しいのはわかるけど、たまにはいいとこ見せてーからよ」



彼に言われて私は二つ返事で行くと言った。今日も私たちは練習試合があったけど、終わってすぐに応援に来た。そのせいで少し遅くなってしまったが、来られたこと、そして彼の勇姿が見れることが何より嬉しい。キィンと高い金属音が聞こえて打球が抜けて行った。彼がものすごい速さで走っていく。「おいおい、倉持彼女が見に来てるからって気合入りすぎじゃね」「いつもに増して早ぇ」そんな声が選手たちから聞こえて思わず赤面してしまう。



一塁に立つ彼がこちらを見上げた。確かに、目が合った。彼はまぶしいほどの笑顔で、もう一度、打席に入る前のように軽く手を挙げた。「おい倉持ぶっ殺すぞオラ!」とまたベンチから怒声が飛んでいたけど、それでも彼は笑っていた。その笑顔がこの観衆の中の私だけに向けられたものかと思うと胸が熱くなって、私は周りの歓声に負けないように声を張って「ナイバッチ、洋一!」と叫んだ。


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