太陽に向いて咲く | ナノ
わずかに反響する


次の日、私は心臓が張り裂けそうなくらいドキドキしながら学校に行ったのに、いつもと何も変わらない一日だった。何より、倉持くんがいつもと何も変わらなかった。朝会ったら軽く手をあげて「おっす」と言われた。私も思わず「おっす」と返事してしまったが、混乱が隠し切れなかった。昨日のことは、なかったことになってるのかな?いや、そもそもあれはキスなんかじゃなくてただ顔が近かっただけなのかな…?だとすると全てが自意識過剰な私の勘違いということになって恥ずかしい極まりない。机に突っ伏す。



「どうした、苗字」

「なんでもないです放っておいてください…」

「いやなんでもなくないだろ、なんで敬語?」



御幸くんが心配そうに聞いてくる。なんで敬語?ってそういえば倉持くんにも言われたことがあったななんて考えてまた頭を抱えたくなった。頭が倉持くんでいっぱいだ。どうしてだろう、ああ、こんなこと今までなかったのに。キスされそうになってたって勘違いしてたとか恥ずかしすぎる…。手に持っていたシャーペンの芯がばきりと音をたてて折れる。



「何悩んでんだよ、まあ前向いて頑張れ」

「御幸くん…たまにはいいこと言うんだね」

「たまにはってなんだよ」



御幸くんが呆れたように笑う。御幸くんは意外と優しい。私は笑顔を作って言われた通り前を向いた。何もなかったけど、私の勘違いだったけど、だからって何でもない。気にしない気にしない…。




***




「あっ!苗字さん!苗字さーん!」



遠くで私を呼ぶ声がする。見れば倉持くんたちの後輩の沢村くんがぶんぶんと大きく手を振っていた。隣には背のひょろっと高い色白の男の子と、ピンク色の背の低い可愛らしい男の子が立っている。私も手を振りかえした。



「沢村くん!ひさしぶり」

「ひさしぶりっすね!元気でした?」



沢村くんは輝くような笑顔で言った。こんな可愛い弟がいたらいいなあなんて考えていたら、一緒にいたピンクの男の子が背の高い男の子に何か耳打ちしていた。「ほら、先輩の…」と小さく聞こえたが、何を言っているかはわからなかった。すると沢村くんが思い出したように言った。



「そういえば、苗字さん大丈夫でしたか!?」

「え、何が?」

「ストーカーっすよ、ストーカー!倉持先輩がどうにかしたんすかねやっぱ!」



沢村くんが大声でストーカーという単語を発しているのを止めようとするよりも、私は言葉を失ってしまった。どうして、沢村くんは私が付きまとわれていたのを知っているのだろう。それも、どうして倉持くんの名前が?私が何も言えずに立ち尽くしていると、沢村くんが心配そうに「先輩?」と私の顔を覗き込んできた。


 
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