太陽に向いて咲く | ナノ
レンズ越しの景色


「あっ」

「苗字、よろしく」



見れば御幸くんが人差し指をこちらに向けて不思議なポーズを取っていた。隣の席が御幸くんとは、まあなかなか悪くない席替えだ。右隣が御幸くんで左隣は三年連続同じクラスの男の子だし、前は優しい女の子で想像以上にいい席になった。ただ一番後ろでいまいち黒板が見えない。コンタクトレンズを新調しなければ。



「いやあ、倉持と席遠いな」

「うんそうだね」



御幸くんががっかりとして言うので見れば、倉持くんは前から二列目で到底ここから近い席とは言えなかった。残念がるだなんて、御幸くんと倉持くんってなんて仲がいいんだろうと感心する。やはり同じ部活って大きいな。私も愛ちゃんと仲がいいし。そう思って黒板に書かれている先生の字を写そうとしたら、一部字が小さくて読めない。顔をしかめていると、御幸くんがにやにや笑いながら声をかけてきた。



「どうした」

「ああ、字が見えなくて。あの最後の行なんて書いてある?」

「ん、眼鏡貸してやるよ」

「えっ、いいよ」

「あの行だけだろ。いいから」



御幸くんに眼鏡を押しつけられてかけてみると、一気に視界が明瞭になった。むしろ見えすぎて頭が痛くなりそうになる。慌てて最後の見えなかった行を写して御幸くんに眼鏡を返そうと思ったその時、レンズ越しになぜか倉持くんと目があった。




***




「拗ねんなよ」

「拗ねてねーよ!」



練習中も寮に戻ってもなかなか目を合わせてこない倉持に言うと、やつは怖い顔をして反論した。あれは実に面白かった。苗字が黒板を見にくそうにした瞬間、しめたと思った。言われたとおりに苗字が俺の眼鏡をかけた、よし、そして案の定倉持がこちらを見た、よし!全部自分の思い描いたようになって思わずにやりと笑ってしまった程だ。



「お前が眼鏡で苗字の隣の席だったらなあ」

「何の話だよ!」

「だから苗字の」

「あーもういい!」



倉持はそのまま俺から顔を背けた。そろそろこいつも素直になった方がいいのになあと思う。こんなに友達想いの友達がいるのに。心の中でそう思い笑っていたら、無意識に高笑いしていたらしく「何が面白いんだよ!」と倉持にまた言われた。そんなやつの顔が少し陰った。



「そういや内田、退学になったんだろ」

「なんだ、責任感じてんのか」

「いや…」

「隣のクラスのやつが先生に言ったんだよ、何があったか。やっぱりお前、理由言わなかったのか」

「まあ…逆に苗字に迷惑かかったら本末転倒だろ。それで内田が付きまとわなくなればそれで良かったのによ」



倉持が何か考えるように空中を見つめながら言うので、俺は黙った。「お前相当苗字が好きなんだな」と言ってみたくなるのを抑えた。また怒られても面倒くさいしな。そう思ってまた高笑いした。


 
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