太陽に向いて咲く | ナノ
動き始める気持ち


その話は学校のあちこちで囁かれていた。私は少し左右に顔を振って周りを見る。愛ちゃんも朝一番に私のところに来て嬉しそうに言った。「内田が退学になったって」と言う顔には、安堵があった。私は驚いて「えっ」としか言えなかった。寝耳に水とはまさにこの事だ。



「いや、退学でも正確には自主退学らしいぜ。噂だけど」

「なんでもいいでしょ、退学は退学じゃん」

「まあな。でもなんでだろうな」



愛ちゃんがクラスの男の子と話しているのを聞きながら、私はぼんやりと倉持くんのことを思い出していた。倉持くんは、あの時私を助けてくれたな、と考えながら窓の外を見る。今頃朝練をしているんだろうな。だってまだ教室にはいないし。ふと、内田くんの退学の原因は私にあるのでは、という考えが頭を過ぎったけど、それは少し自意識過剰に思える。そんなわけない、私は少し付きまとわれただけなのだし。内心、内田くんがいなくなってよかったと思ったが、そう思った途端に罪悪感に苛まれた。喜んではいけない。



「名前、何してんの次体育だよ」

「えっ」

「早く着替えなって」



気づくと周りの生徒はガタガタと立ち上がって体育の授業に向かい始めていた。しかもいつの間にか朝礼まで終わっている。「ちょっと時間かかっちゃうから先に言ってて」と愛ちゃんに言う。相当考え込んでいたんだな、自分。そう考えながら慌てて着替えているとドアがガラッと勢いよく開いて倉持くんと御幸くんが入ってきた。私はシャツを脱ぎかけた手を止めた。もう私しかいないと思って、男女を隔てるカーテンをひくことも忘れていた。「あっ」とお互い声が出る。倉持くんの顔がぼわっと赤くなった。



「おま、カーテンひかずに着替えてんじゃねーよ!」

「ごごご、ごめんなさい!」

「うわー、倉持のえっちー」

「なんでだよ!」



御幸くんがいししと笑いながら制服をがばっと脱いだ。なんと制服の下にすでに体操着を着ていた。「あっテメーせこいぞそれ!」「はっはっは!頭を使え!じゃ、俺はお先に」そんな会話があって御幸くんはあっという間に教室の外に消えてった。は、早い。いや関心する前に早く着替えなきゃ、と思っていると倉持くんがシャツを脱ぎ始めたのでドキッとしてしまった。「おいお前も早くあっち向いて着替えろよ時間ねーぞ!」と倉持くんに怒られてしまったので慌てて彼に背を向けて着替えた。倉持くん、意外とたくましい身体してるんだな。びっくりした。



「行くか」

「遅刻かな」

「うん、まあギリアウトだな」



倉持くんと廊下を歩く。さっき見えた倉持くんの腹筋が頭を過ぎって頭をぶんぶん横に振る。何考えてるんだ私!これじゃ変態みたいじゃない!「何してんだ」って倉持くんの呆れたような声がして、「ううんなんでも」と返すのが精一杯だ。ふと、倉持くんと二人で廊下を歩くって初めてだなあと思って、意外と思ったより身長もあるし歩幅もあるしと変な事を考えていた。私の知らない倉持くんがまだまだいるのだな。私はふと思い出して口を開いた。



「この間はありがとうね」

「ん?」

「内田くんにほら、手掴まれて」

「ああ、別にいんだよ」

「うん…まあ内田くん退学したらしいけど」

「……まじか」


 
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