Halloween | ナノ







大学入学を期に、今年の春から始めた一人暮らし。
毎日毎日、学校と家の往復。

過保護な親から逃れようと、やっとの思いで両親を説得して得た自由。
しかし、昔から体の弱かった私は、未だにしばしば体調を崩す事もあり、バイトも入学と同時に始めたのを3ヶ月で辞めたっきり。
幸い、実家はお金持ちだったから、衣食住には困らない。



ピンポーン


『はい』

《白猫ホクトですが、名字名前様宛のお荷物の宅配です》

『今開けます』



親の所有するセキュリティーの万全なマンションの、一人暮らし向けの部屋を用意してもらったものの、入居して半年が経った今ですら広すぎる。

そんな広い部屋に、再び呼び鈴が鳴った。
玄関のドアスコープを確認すると、白猫の作業着を着た若者が見え、『はーい』と返事をしながらドアを開けた。



「あ、白猫でーす」

『ご苦労様です』

「荷物、結構重いんで中に降ろしましょか?」

『あー…部屋の中までお願いできますか?』

「わかりましたー」



どうぞ、と客用のスリッパを出して招き入れると、「失礼します」と、重たい物を持っている割には身軽な身のこなしで部屋にあがる配達員さん。

リビングに向かう途中、荷物の内容を見て、「中身、食材みたいなんで、キッチンに置きましょか?」と言った。
そうするようお願いして、キッチンを案内すると、あんなに軽そうにしていた荷物を置いた瞬間、ドシンとかなり重そうにシンクに響いた。



「ここに判子かサインお願いします」

『あ、はい…』



若い男の人だし、これくらいの重さなら何てことないのかな?くらいにしか思わなかった。
判子を捺すと、それを確認した配達員さんは「OKです」と、玄関に向かった。

なんだかやたらいい声で、身長も大きくて、スタイルも良さそうな配達員さん…同い年くらいかな?なんて思い、ふと顔を見上げた。



『っ、』

「ほな、お邪魔しました〜」

『わ、わざわざありがとうございました…』

「ええんですよ、女の子一人やあんなん重いやろうし」



そこにあったのは、思っていた以上に…いや、驚く程整った綺麗な顔立ち。
歳こそ同い年くらいだが、大人っぽい印象を受けた。

「ほな、」と配達員さんが出て行った玄関の鍵を掛け、キッチンへ。
配達員さんが運んでくれたダンボールの伝票には、実家の母親の名前。
中身は食材らしいので開けてみると、いつもの野菜やら、母親が作ったおかず。
ダンボールの底には、いつも無くなった頃に送られてくるお米。

添えられていた手紙をとりあえず取り出し、冷やす必要のある物を冷蔵庫に入れる。



『ハァ…私、何やってんだろ…』



昔から過保護な家族が嫌で嫌で仕方なかった。
我が儘を言って一人暮らしを始めたものの、世間知らずな私は大学のお金も衣食住も、その嫌で嫌で仕方なかった親頼り。
何か夢があって大学に通う訳でもなく、夢もやりたい事も無いから、無難な大学に入っただけ。



(おとぎ話みたいな、非日常的な事に巻き込まれて、この世から私という存在が消えたらいいのに…)



毎日毎日大学と家の往復。
今ならわかる、過保護な家族が嫌だったんじゃない…"自分"というものが無い自分自身が嫌だったんだ。



『…馬鹿みたい、私』



□□□□□□



深夜、ふと目が覚めた。
カーテンの隙間から差す月明かりが、今日はやけに明るく、目を覚ましたばかりの私には眩しく感じた。

カーテンを締め直す気にもなれず、布団を被り直すと、すぐそこのベランダから、コツンと微かに音が聞こえた。
ここは8階、人が外から侵入するには無理がある高さだ。



(…気のせい、)



そう思うようにしてみたが、今度は布がはためくような音…洗濯物の取り込み忘れ物があっただろうか?
もしそうなら、風で飛ばされないうちに取り込まなくては…と、重い体を起こした。

すると、気付いてしまった。
ベランダに立つ黒い影…
ここは8階…寝る前に施錠はしっかりしたし、どの窓ガラスも強化ガラスの二重窓。



(…人?)



人の形に見えるその影は、不審な動きをするでもなく、音も立てずにベランダの窓を開けた。
鍵を掛けていたはずなのに…と、頭で思っていても、影から目が離せない。
動こうと思えば動けるのに、逃げようとしない体。

開いた窓から入ってきた風で舞うカーテンの間から入ってきた影…
その姿はまるで…



『…吸血鬼?』



黒いマントを靡かせ、黒い燕尾服を纏った男。
私の声に気が付いたその男は、ゆっくりと私に近付いた。



「仰る通り、吸血鬼です…」

『はぁ…』

「あなたの血をいただきに参りました」



私、このまま殺されるのかな…なんて、呑気に考えていると、「では…」と、これからキスでもするかのように私の顎をくいっと上げ、男の歯が首筋にあてられた…



『っ…、』



噛まれた事事態が無かったが、ゆっくりと歯が刺さっていく痛みは、注射針の比じゃなかった。



『…?』



しかし、歯が十分刺さると、痛みが快感に変わった。
体の内側の奥から込み上げてくる、ぞくぞくとした快感は、触ってもいないのに女の性感帯を刺激する。



『あっ、あ…ん…っ、』



抵抗する所か、漏れる声すらも我慢出来ず、その快感に酔いしれていると、途端に男は私の両肩を掴んで、首筋から口を離した。



「うっす!?」

『…え?』



突然、声を上げた男に驚いていると、男はその調子のまま続けた。



「血、薄すぎるわ…栄養バランスのええ食事に、規則正しい生活、ちゃんとしとるか?」

『…え、』

「ちゃんと鉄分とらなアカンやろ」

『あの…』

「こんな血薄かったら、日常生活もしんどいんちゃうん?」

『まぁ、』

「でもなぁ…あんた、俺の好きな血液型やねん。ものごっつ珍しい型やし、他に捜すんキツいしなぁ…」

『…はぁ』

「せやなぁ…俺が面倒見たるから、もうちょい血濃くしてから吸わせてもらうわ」

『そう、ですか…』



何故か関西弁な吸血鬼さんの一人喋りに呆気に取られていると、最後の台詞に引っ掛かった。



『…え?今、何て…』

「しゃーないなぁ…とりあえず、今からちゃちゃっと着替えだけ持って来るから、ちょぉ待っといてくれるか?あ、寝といてもええで?窓開けといてくれたらええから」

『いや、ちょ…え?』



勝手に話を進めていく吸血鬼さんは、「これ、邪魔やから置いてくわ」とマントを置いて、入ってきたベランダに出た。



「ほな、すぐ戻るから」

『すぐ戻るって…っ!?』



ベランダの手すりに足を掛け、勢い良く飛び出した吸血鬼さん。
何度も言うが、ここは8階。
この高さから飛び降りるなんて自殺行為を目の前でされ、慌ててベランダから下を見下ろすと、優雅に人の家の屋根を伝って飛ぶ姿が。

人間離れした行動の数々に、私のただの妄想だと思いたかったが、手元に残されたマントがそれを許さなかった。



『どういう事よ…白猫のお兄さん、』





真夜中の侵入者






月明かりに照らされた顔は、昼間の配達員のお兄さん。



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お察しの通り、某鉄分飲料のCMパロです。
あのCM、萌えます。


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