料理が全くと言っていいほどできないリコは、某試食会の時以来、ある人物に料理の基礎から学んでいた。誰に、と言うと、意外に料理が上手い火神にだ。火神本人が言うとおり、彼はかなりスパルタで、リコは作り方を覚えるだけで精一杯でいた。途中諦めて作るのは何度も諦めようかと考えるリコ。
しかしその度に火神が優しく頭を撫で「頑張ろうぜ、です」と言うのでリコは頑張れた。

その特訓のおかげでリコは確実に料理の腕を上げていった。そして自分の料理の腕を試すために、ある練習試合の前日にリコは言った。自分が弁当を作ってくるから弁当はいらない、と。予想通り日向達は今にも死にそうな顔をしてリコを見る。しかしあまりにもリコが可愛らしい笑顔を浮かべるので反論なんてできず、黙って頷いただけ。

「いよいよ明日ッスね」
「そうねー…やっぱりちょっと不安だわ」
「カントク、今まで頑張ってきたし絶対大丈夫だ…です」
「ん、ありがとう」

火神の優しい言葉に励まされ、リコは笑ってみせた。すると火神も笑った。

***

「さ、今から昼食ね」
「「………」」

心臓をバクバクさせながら、リコが弁当を鞄から取り出す様子を見守る部員。今からどんな料理が飛び出すのか、そしてそれはどんな未知の味がするのか。そして食べた後はどこに行くのか、地獄か天国か。よくないことばかり考えてしまい頭がどんどん混乱してきた部員達は小さく深呼吸をした。深呼吸をすると幾らか緊張や不安は解れた。しかしリコが弁当(という名の重箱)を取り出した瞬間、先ほどの苦い記憶がよみがえる。

「じゃ、お披露目!」

リコが笑顔で重箱の蓋を開けるとそこにはなんとも可愛らしい飾りつけのオカズやキャラクターの顔をしたおにぎりが。今流行りのキャラ弁というものらしい。1番下の段におにぎり、2段目にはオカズが綺麗に入っている。どれもおいしそうで、某試食会のときとは比べ物にならない。

「あれ、普通…?」
「カントクが、キャラ弁?」
「最近流行ってるって聞いたから、試してみたのよ。そんなことより大事なのは味でしょ。食べてみて!」

みな、顔を見合わせ覚悟を決めたようにうんと頷きいっせいに口に料理を運ぶ。そして、一言。

「「おいしい」」
「本当?!良かったわ」

リコは満面の笑みで頷き、自分も料理を口に運ぶ。火神はそんなリコを笑顔で眺めながら、リコの料理を食べる。

(短期間でこんなに上手くなるなんてな…)

「まじで美味いです、カントク」
「うん、ありがとう。全部火神君のおかげね」
「いや、オレは教えただけで、作ったのはカントクなんで」

火神がそう言うとリコは嬉しそうに笑い、火神の髪をくしゃと撫でた。突然撫でられ火神は一瞬固まるが、後ろに感じる殺気に気づき我に返った。そしてものすごいスピードでリコと離れる。火神の後ろには、日向はもちろんのこと伊月や黒子、小金井が黒い笑顔を浮かべて立っていた。火神くん、と普段絶対に呼ばれることはない呼び方で呼ばれ鳥肌が立つ。覚悟しろ、誰かが言ったその言葉を合図に彼らは火神に飛び掛った。

「ちょ、ま、いや、これにはわけ、が、うわああ!」


言い訳は無用


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