▽リコ視点

相変わらずの唐突さと強引さにため息をつかずにはいられなかった。

『あ、もしもーし!リコさんですか?実はですね、明日テツ君たちとハロウィンパーティーするんですけどリコさんもぜひ来てください!リコさんの予定があいているのはもうテツくんに聞いて知ってますから!あ、場所は桐皇学園の部室です!明日楽しみにしてますね!じゃあ失礼しまーす!』

部活の休憩時間を狙ったかのようにかかってきた桃井からの着信。嫌な予感がしながらも通話ボタンを押せば、もうその瞬間には手遅れだった。私の意見など全く聞かずにベラベラと喋るだけ喋り通話を切られた。断る時間なんて与えないという速さで。つまりは桃井の作戦に私は太刀打ちできなかったわけだ。
あの小娘、やってくれるわ。黒子君から私の明日のスケジュールまで聞いているなんて、恐ろしい女。流石キセキの世代のマネージャーをやってきただけあるわね。
それにしても明日ねえ…本当に急なんだから。でもまあたまには息抜きも必要だし、明日行ってみようかしら。

***

なんて、軽い考えで来たのが間違いだった。
桐皇学園に着くや否や私は何故か紫原くんに担がれて体育倉庫に連れて行かれた。そしてそこで待ち構えていたのは満面の笑みの桃井で、そばに置かれた可愛らしい袋の中には何やら布がたくさん入っている。それが何なのかまでは分からないけれど、桃井の不気味すぎるほどの笑顔からして私にとってはいいものではないことは確かだ。

「桃井、私をどうするつもり?」
「そんな怯えなくて大丈夫です!ハロウィンに相応しい格好にするだけですから!」
「は、あ?」
「さあさあこっちに来てください!あ、むっくんもう下ろしていいよー」

紫原君は桃井の言葉に静かに頷くと意味深に笑って体育倉庫から出て行った。その笑みで私の嫌な予感が更に確実なものになる。
桃井は傍に置かれた袋を私の目の前に置くと、「この中から好きなものを選んでください」と口にする。何が入っているかはさっきの桃井の言葉で何となく予測はついている、が。出してみるとどれも露出が多いものばかりでとても着られるわけがない。天使、小悪魔、魔女、吸血鬼、動物モチーフの衣装…。どれを選んでも胸と背中と足は隠せない。

「ちょ、この中から選べって冗談でしょ?!着られるわけ無いでしょ!」
「えーじゃあ私が選んじゃいますよお。…じゃあこれ!」
「ば、ばか!!」

桃井が選んだのは天使と対になっている小悪魔の衣装だった。私が着るには少し色気がありすぎる。胸元と背中が大胆に開いた黒いミニワンピース。背中には黒い羽と、腰あたりには悪魔の尻尾。かなり本格的に作られているのは見てすぐに分かった。衣装だけでも十分だというのに、桃井はツノがついたカチューシャと網タイツまで用意して、私が受け取るのを今か今かと笑顔で待っている。

「着ないわよ」
「えーこれ着てくれたら青峰君たちの身体見せてもいいかなあって思ってたんですけど…」
「…」

おいしい話だとは思う、けどこんなに恥ずかしい服を着るのは躊躇ってしまう。桃井に見せるのでさえ抵抗があるのにましてやキセキの世代に見られるなんてとんでもない。ああもうどうする私、どうする!!

「…着るわ。だから約束は絶対守ってもらうわよ」
「はーい!うふふリコさんお着替え手伝ってあげますねー!」
「いらんわ!」

***

それから私は桃井の何十回にも及ぶセクハラを何とか交わし衣装を身につけた。そして桃井によるメイクを施されて私はやっとパーティーが開かれるという部室に向かうことができた。満足そうな表情の桃井は私と対の天使の仮装だった。天使がモチーフになっているだけあって露出は悪魔の衣装に比べてかなり少ない。私と桃井の衣装は逆の方が似合ってたんじゃないかと今更思う。思わずため息とつけば桃井は「大丈夫ですよとっても似合ってます」と可愛らしい笑みを浮かべた。そしていつの間にやら着いていた部室の扉を開けてゆっくりと中へ入っていく。追いかけるようにして足を踏み入れればキセキの世代である彼らも思い思いの仮装をしていた。

「あ!!リコさんすごく似合ってるッスよ!可愛いっス!」
「へえ、脱がしやすくていいんじゃねえの?」
「リコさんとても可愛らしいですよ」
「あ、ありがとう、ございます…」

言われ慣れていない私には彼らの言葉は刺激が強すぎて、私の頬は一瞬で赤く染まる。体中の熱が顔に集中してものすごく顔が熱い。そんな私を見て青峰君は馬鹿にしたように笑うけど今の私には言い返す気は起きなかった。彼らの前でこの格好をしているのに慣れていないせいだと思う。こんな破廉恥な服装は他人の前でするべきではない。絶対に。

スカート丈が気になり下に引っ張っていると桃井が突然後ろから抱きついてきた。突然のことにバランスを崩しそうになる私を桃井は想像より強い力支えてくれた。

「ふふリコさんの体やわらかいですー。それにすごくいい匂いがします!」
「ちょっ!首に顔を近づけるな!息がか、ん…っく、こら!くすぐったい!」

離れようとしても桃井の力が想像以上に強いせいで離れることができない。桃井のスキンシップは激しすぎる。黒子君たちに助けを求めようと、彼らを見つめてみるが彼らは楽しそうに笑って私たちを見ているだけで助けてくれそうにない。黒子君と赤司君にいたっては何故か携帯で私たちを撮っている。全く意味が分からない。

「赤司君どうですか、上手く撮れましたか?」
「ああ、テツヤの方はどうだ」
「ボクもバッチリです。快感に耐えるような表情のカントク最高ですね」
「テツよく撮れてんじゃねえか。あとでオレの携帯に送信ヨロシク」
「青峰っちずるいっスよ!黒子っち俺も欲しいっス!」
「赤ちんオレにもちょうだーい」
「オレの携帯にもよろしく頼むのだよ」
「「了解」」

そんな幸せそうな顔してないで早く助けて欲しいというリコの思いは黒子たちには伝わりそうになかった。


カラフルキャンディー
(彼らはリコにだけ甘くなれる)

title by Endless4

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2012年『ハロウィン企画』
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