▽リコ視点

近所にある小さな駄菓子屋。パパが幼い頃にはもうあったという駄菓子屋は、今は1代目のお孫さんが営んでいると聞いた。幼い頃毎日のようにそこへお菓子を買いに行っていた私も、今年で17歳。流石に駄菓子屋に行く歳ではない為に、ここ数年は訪れていない。
そんな駄菓子屋に私は久々に行きたくなり、通学鞄に入れっぱなしになっていた財布を取り出して、家を出た。

***

「こんにちはー」
「あ、相ちん久しぶり〜」
「…ちょ、は、え?!」

少し暗い店内に向かって声をかけてみれば、返ってきた声はなんとなくどこかで聞いたような。聞き覚えのあるやる気の無さそうな声。まさか、そんな、あの男がここにいるわけがない。こんな小さな駄菓子屋にいる理由が全く見つからないのだから。
けれど私が勇気を出して店内に入ると、そこには見間違いようのない、紫の髪の長身の彼。間違いないわ、紫原君ね。

「久しぶりね、どうしてここにいるのかしら」

おいしそうにお菓子を頬張る彼を見たら何だか私までお腹がすいてきて、いろいろ聞きたいことがあったけれど聞くのは諦めることにした。

「んー…相ちんの家行こうとしたんだけど迷っちゃって、どうしようかって悩んでたらここ見つけて、ちょっと休憩してた〜」
「…そう」

いざ聞いてみれば理由は大したことじゃなくて。ここにいる理由より寧ろ私の家に来ようとした理由を知りたくなった。まだ状況を把握しきれない私のことも気にせず、紫原君は手に持ったポテチをおいしそうに頬張っている。

「それより相ちん、新味見つけたから食べてみてよ。絶対相ちんも気に入るし」

ずっと手に持っていたポテチを私の口元に近づけ食べるように促してくる紫原君。でももう片方に握られたポテチの袋のパッケージは少々怪しい。食欲をそそられない寒色系でまとめられたパッケージは、お世辞にもおいしそうとは言えなくて。いくら紫原君のオススメでも口にすることを躊躇ってしまった。

「いいから食べてみてよ。ほら、アーン」

私の意志は完全無視でポテチを唇につけて、唇を開けろと促すようににとんとんとポテチを何度も唇にくっつけてくる。おいしそうな匂いと唇についたポテチの味に負け、私は結局唇を開いてしまった。

「…おいしい」

パッケージとは違って、味は確かにいい。今まで食べたポテチとは全く違う味。新鮮で、病み付きになりそう。もう一枚食べたい衝動に駆られて、袋に手を伸ばすけれどお菓子好きの紫原君がくれるはずがなく、袋を守るように胸に抱えてしまった。
ケチ、そう小さく呟くと彼は突然立ち上がって、抱えているポテチと同じものを2つ購入した。

「紫原君?」
「相ちんの家で食べる用。ほら、行こ〜」
「え、ちょっ」

無理やり私の腕を引っ張り立ち上がらせると、紫原君は適当に歩き始める。ちなみに私の家とはまったく逆方向だ。今家にはパパがいるから、紫原君なんて連れて行ったら、どうなるか分からない。このまま紫原君に黙ってついていった方がいい気がして、私は彼のあとをついていくことにした。何も喋らずお菓子を食べ続ける紫原君の背中を見つめながら、どうせならいつもと違う新鮮な1日を楽しんでやろうと思った。しっかりエスコートしてよね?紫原君。


世界は巡っているのだ

−−−−
友人に頼まれていた紫リコ。甘くも何もならなかった。


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