▽赤司視点

何よ、そう強気にボクを睨む彼女は男らしいと言えば男らしいが、所詮一人では何にもできない非力な女。少し強めに握っただけの腕すら振り払うことはできないんだから。

「、離しなさいよ」
「嫌だって、言ったら?」
「噛みつくわよ」

先程よりも強い光を放つ瞳は、どこかテツヤと似ている。強い意志を持っている瞳だ。何だか笑えてくる。
思わず笑みをこぼす俺を見た彼女は更に強い光を瞳から放ち、ボクの腕に思い切り噛みつく。想像よりも痛みは強いし、噛みついた痕もくっきり残っている上に、うっすらと血さえ滲んでいた。凶暴な子犬みたいだな。再び笑いがこみあげてくるが、また同じように噛みつかれるのは避けたいので耐えた。

「…まるで、テツヤ達を守る番犬のようだ」
「別に構わないわ、そう受け取ってくれても」

ボクの言葉を否定せず、今もなお強い光を放つ瞳でただボクを見つめた。ボクの、苦手な光だ。何もかもを見透かされそうで、嫌な気分になる。
ボクは、彼女が嫌いだ。テツヤと同じ瞳でボクをまっすぐに見つめてくるから。全てを見透かされそうで怖いから。今まで誰にも知られたことのない心の内を今更、しかも大して面識のない彼女に知られるなんて、冗談じゃない。

「…ボクの嫌いなタイプだ、相田さんって」
「あら奇遇ね。私も君が嫌いよ」

ボクに腕をつかまれていたときはまだ多少の女らしさはあったというのに、もう今では女らしさなんてどこにもなかった。勇ましいぐらいの堂々とした態度、表情。女にしとくのはもったいないぐらいだ。ついそう口にすれば彼女は何故かボクに思い切り笑いかけた。…当然のように、目は笑っていない。
面白い女だと思う。桃井とはまるで違うタイプだ。前面に出る女らしさというよりも、内側に隠れた女らしさがある。ボクといるときに時々見え隠れする女らしさが、妙に心をくすぐる。あ、女らしい面もあるんだなって。
嫌いって言ったけど、案外好きかもしれない。実に興味深い、カントクさんだ。

「相田さんのこと気に入ったよ」
「は、?」
「だから、ボクと一緒にこない?」

微笑んでそう告げたボクの頬に相田さんの拳が当たる。「ふざけないで」そう言った彼女の瞳から溢れた一粒の涙は地面に小さな染みを作った。ふざけてないよ、と言うはずだった口からは、何の言葉も生まれなかった。


分かり合えるはずがないもの

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某様お誕生日おめでとうございます。
2012.08.07


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