▽日向視点

いつもオレたちを支えてくれているカントクは、男のオレたちより強くたくましい。いつでも前向きで過去を振り返ったりはしない。涙だって流すことは滅多にない。というかオレはまだ一度も見たことがない。

「カントク、まだ帰らないのか?」
「うん、まだやることがあるから」

無理して笑顔を作るカントクは、誰の目から見ても疲れ切っているように見えるだろう。いつもカントクは最後まで残って仕事をしている。オレたちの見えないとこでもずっと働いていて、休んでなんかいない。オレたちより先に倒れてしまうんじゃないかと、不安にもなる。

「カントク、少しは寝てるか?」
「う、ん、一応、ね」

目も合わせず歯切れ悪くそう言ったカントク。多分寝ていないんだろう。人一倍責任感が強く、頑張り屋なカントクだから無理をしてでもオレたちのために働く。オレが言ってもカントクは言うことを聞いてくれない、それぐらいわかる。

「じゃあオレも手伝う」
「いいわよ、日向君疲れてるのに…。私なら大丈夫だから」
「いいわけないだろうが。ダアホ。カントクが今からオレたちのために働くって言うのに帰れねえっての」

カントクはまだ納得していない様子だけど俺はさっさと部室へと向かった。オレを見てカントクも慌てて追っかけてきた。

静かな空間にオレは多少の気まずさを感じながらも他校のデータ整理を手伝う。膨大な量のデータ、カントクはこれを今まで一人でやっていたと思うと頭が下がる思いだ。ハイペースでデータ整理をしていくカントクに比べてオレは何の役にもたってねえ。そう小さくつぶやけばカントクは笑って「いてくれるだけでも嬉しいわ」と言ってくれた。


「カントク、これどうす…カントク?」
「……」

暫く整理をしていたらいつの間にかカントクは机に伏せて寝ていた。時間は7時過ぎたところだ、少しなら寝かせてやれる。けどその前に何か肩にかけたやった方が…そう思って自分の学ランをカントクにかけたとき、ゆっくりと目を覚ました。オレの瞳をしっかりと捕らえているけど、完全に目が覚めているわけではなさそうだ。トロンとした瞳でオレを見つめて、手を握って指を絡ませてきた。

「カ、ントク…っ、」
「ありがとう日向君…」
「な、にが?」
「私本当に嬉しかったわ。こうして私を心配してくれて…本当に、ありが…とう」

それだけ言うとカントクはまた眠りについた。珍しく素直なカントク。初めて見た。なんつーか、可愛かった…。こんな姿見せられたら、強くてたくましいなんて言えない。普通に可愛かったし。カントクのこんな一面を見れたなら、やっぱり手伝って良かったな、なんて。手も、握れたし…うああ、やべえ。オレすげえ得したな。


指が絡み合ったとき
(オレの頭はカントクのことでいっぱいになった)
(やっぱりこれって、好き、ってことだよな。きっと)


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