※パラレル


今日、桜乃は夜番だった。いつもは二人体制で患者に対応するはずなのだが今日は一人だった。怖がりな桜乃にとって、夜の病院で一人で仕事をするのはとても大変なことだった。少しでも物音が聞こえようものなら、反射的に構えてしまう始末。
そしてその音の正体が分かった途端に安堵して自分の行動を恥じる。

「うぅ…私この仕事向いてないかも…」

最初こそ張り切ってやっていたが、だんだんと慣れてくると夜番の仕事も任されるようになってしまい疲れていた。はあっとため息をついたとき、後ろから誰かに抱きしめられた。

「ふぇえ?!だ、だだだだ誰ですか?!」

突然抱きしめられたので我に返ったのは数秒経ってからだった。桜乃はゆっくり後ろを振り向いた。そこには跡部景吾…この病院で一番腕のいい医者であった。

「あ、跡部先生?!ど、どうしたんですか?」
「アーン?理由がないとお前に会いに来ちゃ駄目なのか?」
「そんなことないです!逆に、嬉しい、です」

桜乃がそう照れながらもそう言うと跡部も満足そうに笑い、桜乃を真正面に立たせ抱きしめた。跡部の白衣からは、鼻にツンとくる消毒の臭いがした。

「で、でも…誰か来ちゃいますよ?」
「大丈夫だ、今日のスケジュールを全員分把握しているが今の時間帯は誰も来ない」
「それならいいんですけど…」

久々にお互いに触れた気がして、離れたくないというわがままな気持ちが出てくる。でも今は勤務中ということもあるし、いつ患者の容態が変わるかも分からない。名残惜しそうにお互いに自然と離れ、それぞれの持ち場に戻ろうとした。跡部は帰り際に後ろは見ず前を向いたまま言った。

「明日は一緒に昼をとるから、食堂に絶対いろ」
「…は、はい!」


∵日常の中にある何気ない幸せ
(それだけで足りるのか?)
(はい!跡部さんと食べれるだけでおなかいっぱいです!)
(か、かわ…っ!)



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