そう、彼はまるで、王子様のようだった。

週末、いつも私は朋ちゃんとショッピングを楽しんでいた。談笑しながら歩いて、おなかがすいたときはクレープやアイスを買って食べる。ごくごく普通の女の子の買い物。ただ1つ…方向音痴ということを除けば。桜乃は天才的にずば抜けて方向音痴だった。これは昔からであり、桜乃の両親も祖母スミレも大変苦労した。

「さっきまでたしかに朋ちゃんいたのに…」

少し目を離して視線を戻したときにはもう、朋香の姿はなかった。桜乃自身も自分が方向音痴というのは自覚済みなのでそれほど驚きはしないが不安になる。桜乃はしばらくその場から動かずにいることにした。迷子になった者が同伴者を探すなんて無理だからだ。
しばらくして桜乃は話しかけられた。待っていた者ではなく、集団の高校生に。

「あ、あの…?」
「うおっ久々にヒットじゃね?」
「おおー本当だ!めっちゃ可愛いじゃん!」
「うーわ肌しろーっ!」

桜乃が戸惑いながら返事を返すと、高校生たちは勝手に盛り上がっていた。桜乃にとっては不快な言葉、雰囲気。どうしようかと困っていた、そのときだった。

「女1人に男が何人たかってんだ?アーン?」
「な、なんだテメェ?」
「お前らに名乗る名なんてねぇよ」

俺様なしゃべり方に俺様な態度。すぐに桜乃にはわかった、相手が氷帝の部長だということが。跡部は桜乃のほうをチラリと見て、にやと笑いそして、桜乃を担いで走り出した。そう、担いで。

「きゃ、きゃ、きゃあああ!」
「チッ…少し大人しくしてろ。落としたりなんかしない」
「で、でも!きゃ、は、早いですううう!」

跡部は桜乃を担いで走ってるのに息切れ一つしないで一定のスピードを保っていた。

「ここまで来ればもういいだろう。…大丈夫か?」
「あ、はい、一応…。ありがとうございました…」
「ああ…今日は一人か?」
「あ、朋ちゃんと一緒です」

跡部は、はあとため息をつくと桜乃の手をひいて近くの椅子に座らせた。そして短くここで待ってろと言って、どこかへ行ってしまった。そのあとすぐに朋香が来てくれた。跡部が探しに行ってくれたらしかった。でもその跡部はどこにも見当たらなかった。

「跡部さん、用事あるのに私を探してくれたのよ?」
「え…?」
「今度ちゃんとお礼言っときなよ?」
「う、うん!」


∵助けてくれたのは王子様
(やっぱり跡部さんは優しい、王子様みたいな人だと思った)



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