夏、そう夏。虫がうざったいほど繁殖する季節。うざったいほどの勘違い男も繁殖します。

「あれま?桜乃、ちょっとこっちおいでー」
「なーに?」

桜乃の首に何かを発見した朋香はすぐに桜乃を呼び寄せた。嫌な予感がすると少々顔を歪ませて。「ちょっと首見せて」と言いながらスッと顔を近づけてよく見てみると、ただの虫さされであった。朋香はふぅっと息をはいた。

「虫にやられたのね、首」
「あ、うん。夜寝てるときに刺されちゃったみたい」
「ふーん…絆創膏貼っといたら?」

このままだと勘違いされる。そう思った朋香は鞄のなかに手を入れてガサガサと探し始めた。いつも常備しているはずなのだが、今日に限ってない。

「あちゃー…今日に限って…」
「あ、と、朋ちゃんないなら大丈夫だよ?私このままでも平気だよ」

そう言ってニコッと笑う桜乃だが、朋香はこのままで平気なわけがない。なんとしても絆創膏を貼ってやる!そう意気込んでいる。

「保健室に貰いに行こう!」
「あ、え、で、でも…怪我してもないのに?」
「いいのいいの。保健の先生なら分かってくれるって!それに桜乃はもう少し自覚を持ちなさい」

***

「失礼しまーす」

ガラガラと保健室の戸を開く。そこには山積みになった資料を片付ける保健の先生がいた。

「わー…相変わらずすごい量ですね…」
「あら、小坂田さんに竜崎さん、どうしたの?怪我でもしたの?」

保健の先生はにっこり笑って、こっちを向いた。ちょうど先生の後ろに窓があり差し込む光がまぶしい。桜乃と朋香は数回瞬きをした。

「あ、ごめんなさいね。眩しかったわね」

先生はすっと立ち上がりカーテンを閉めた。

「あの、絆創膏貰えますか。」
「絆創膏?転んだのかしら?それなら消毒しないと、はいここ座って」

先生は小さな椅子を出して座るように指示した。

「あ、違うんです。桜乃の首筋の虫さされ隠したくて」
「虫さされ?」
「はい」

先生は思ったとおり変な顔をして、桜乃のほうを向いた。そして近づいてきて、桜乃の首筋を見た。

(あー…そういうことね…)

先生は何も言わず絆創膏を取り出して手渡した。

「「有難う御座います」」
「いえいえ。それより竜崎さん」
「はい?」
「もう少し自覚を持った方がいいわよ」
「え?」

先生はにこっと笑ってそう言った。朋香はふふっと笑ってしまった。

(先生にも言われるほど、天然ってことか)

「ほらほら桜乃行くよー」
「あ、う、うん」
「「失礼しました」」
「はーい、いつでも遠慮せずに来てね」


「小坂田さんも大忙しね」


∵無自覚少女を護る騎士さま
(竜崎さんに変な虫が寄り付かないようにすることで…ね)



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