砂糖のように甘い恋をしたいと、女子はどこかで期待しているのかもしれない。おとぎ話のように運命の相手に出会うことや、甘い台詞を自分だけに囁いてほしい、そんな願望を女子はいつでもどこでも持っている。だが男子からしてみればそれほどくだらないことはないと言う。「女は夢見すぎ」なんて言うが、おとぎ話の世界は女子の憧れだ。ついつい夢見すぎてしまうことは仕方のないこと。だが男子には女子のその気持ちが絶対に分からない。それは狩屋にとってもだ。女子の乙女チックな話を聞かされても、女子の気持ちはさっぱり分からなかった。

***

「女の子なら誰だって素敵な恋がしたいって。狩屋君分かるでしょ?」
「いや、俺女じゃないから分からないし」
「ほら、そうやって冷たい言い方しないでさ、女子の気持ちになって考えてみなよ。絶対分かるから!」
「いや、何で俺が女子の気持ちになって考えなくちゃいけないわけ?」

葵が突然おかしなことを言うので狩屋はつい冷たく返事を返す。だが葵は先ほどよりも興奮気味に女子の恋愛について語りだす。女子はロマンチックな恋愛がしたいだの、甘い台詞を自分だけに囁いてほしいだの、と聞いているだけでも頭が痛くなるような乙女っぷりに狩屋は内心「女ってめんどくせえ」と毒づく。

葵はなおも恋愛について語っているが、狩屋はそろそろ限界だった為わざとらしくため息をついていた。だが葵はまったく気づく様子もなく語っている。狩屋はもう一度ため息をつくがまったく気づかない。狩屋は仕方なしに葵に口で伝える。

「ねえ空野さん、そろそろ疲れたんだけどなあ」
「あーほら、そうやって女の子の話を中断させるのはよくないよ。女の子は聞き上手な男の子に惹かれるんだよ?知ってた?」
「もうそういうのいいから。別に女子にモテたいとか思ってないし。ていうか俺そこそこモテるから今のままで十分」

そう喋る狩屋に葵は突然何も喋らなくなった。俯いていて、顔がよく見えない。不思議に思った狩屋が覗き込むようにして顔を見ると、瞳に涙をたくさんためていた。だが必死で流さないように耐えているようだった。狩屋は自分が何かしたのかと焦ったがこれといって思い当たることがなく、あわあわと慌てるだけ。すると葵は涙を制服の袖で拭ってから口を開いた。

「…狩屋君モテるんだね。知らなかった」
「別にそんなにはモテないけど…ていうか何で泣いてるわけ」
「何で、だろうね。私にもよくわかんないや」

何だそれ、そう狩屋が呟いたと同時に葵の瞳から涙が零れ落ちた。さきほど拭いたばかりだというのにとめどなくボタボタと零れ落ちて、地面にいくつもの染みをつくる。狩屋はどうしていいか分からずにいた。何て声をかければいいんだろう、何で泣いてるんだろう、疑問ばかりが浮かんでは消えていく。

「…私、狩屋君が好きみたい」
「みたいって何だよ」
「だって、今気づいたんだもん」
「…あっそ」

(何だよこれすっげ顔が熱い。真夏の太陽の下にいるみたいだ。何かすげえ胸もドキドキするし。呼吸も上手くできない。やべえ、まじで顔熱い。俺今絶対に顔赤い。何だよこれ)

さきほどまではなんとも思っていなかったが、葵に告白されて狩屋は自分でも驚くほど葵の存在を意識してしまうようになっていた。葵の顔をまともに見ることが出来ない。真正面から見るなんてとんでもなかった。狩屋の胸の鼓動はどんどんと大きく早くなっていく。その当分は納まりそうにない胸のドキドキを狩屋は少し楽しんでいた。


恋は砂糖でできている
(ドキドキがとまらない)

title by 確かに恋だった

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葵受け企画:Red and Blue様へ
ありがとうございました


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