▽剣城視点

出かけよう、と突然空野は言った。俺は自分が言われているなんて思わなかったから、振り向きもしなかった。それに会話の邪魔になると思い移動しようと一歩足を踏み出した時だ、空野は俺の腕をがっしりとつかんでニコニコと笑顔を向けてきた。まさか、あの言葉が俺に向けて言った言葉だとは思わなかった。買い物なら俺なんかと行くより、松風を誘えばいい。もしあいつが無理なら、西園でも狩屋でも誘えばいい。何で俺を誘ったのか、理解不能だ。理由を聞けば空野はにっと笑って答える。

「剣城君と出かけたかったの。まだ一緒に出かけたことないのは剣城君だけでしょ?友情深めようよ!」
「別に俺は、」
「剣城君、お兄さんのお見舞いのとき何か持って行ってる?」
「は、?」

俺が話している途中にも関わらず空野は話し始めた。しかもいきなり兄さんのお見舞いの話をだ。俺はあまりの突然さに空野に反応ができずに、間抜けの声を出してしまった。空野は俺のその反応にぶっと吹いたあと、話の続きをまた勝手に始める。なんてお喋りなんだ、空野は。空野の話をずっと聞いているぐらいなら、早く兄さんのところへ行きたい。そう思っていたら空野はずっとつかんだままだった俺の腕を引っ張って走り出した。

「は?ちょ、お前どこへ行く?!」
「え、剣城君のお兄さんのお見舞いに持っていくものを買いに行くんだけど?」

いつの間にそんなことになっていたのか。全く分からない。しかし今更こいつに何を言っても意味がないことは分かっている。なら、大人しくしたがっておくのが一番楽なんだろう。俺はそれ以上は何も言わずに大人しく空野に腕を引っ張られていた。しばらくして空野は後ろを振り向いて「急に静かになったね」なんて笑って言った。俺は空野に「兄さんが喜ぶものを買え」と言葉を返す。空野は俺のその言葉に任せてよ、とまぶしい笑顔で頷いた。その笑顔に少し胸がきゅうと締め付けられた理由、それは今の俺にはまだ分からない。


もはや友情ではない
title by 31D

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あっきーへ
お誕生日おめでとう。これからもずっと大好きです。


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