木ノ葉隠れ創設編
-繋がり-
十一月の肌寒い夜に肌を擦りながら二人は自宅へと歩いていた。夜の匂いが鼻を掠めると、何故だか切ない気分になる。
賑わっている商店街が少し遠のいた時マダラがぽつりと言った。
「神を祝う日、か」
『ん?』
微かに白い息が声と共にはき出され、センリはどうしたのかとマダラを見上げた。するとその黒い瞳がセンリを見下ろして、とらえた。
「いや…本当にお前にぴったりの日だと思ってな」
先程の話かとセンリは納得して微笑む。
『ええ、でもその日は私じゃなくてマダラの誕生日だよ』
「そういう事ではない」
センリが再び疑問に思いながらマダラを見つめると、ふわりとその表情が柔らかくなった。
「信仰の自由は兎や角言わんが、俺はこの世界に神とやらがいるとは思っていない」
マダラが突然立ち止まるので数秒遅れてセンリも足を止めた。マダラの後ろ、少し遠くに街の電気の明かりがいくつも見えた。
「だがもし、それに似た存在があるとしたら……俺にとってのそれはお前だ」
藪から棒な言葉にセンリはびっくりして瞬きを忘れる。
「俺にとってお前は…神なんかよりも尊い存在だ、と……そう思ってな」
センリのぽかんとした表情を見てマダラは困った様に笑っていたが、その目は真剣だった。
マダラは本当の事を言っただけだった。
宗教的信仰の対象として様々な実態のない存在を神としている人間はたくさんいる。
マダラは神など信じていなかった。
もしいるのならば世界がこんなに残酷な筈は無い。
そうは思うが、神よりも尊い存在なら側に在る。神などの存在するか分からない不確かなものを崇め称えるより目の前のセンリを愛する方がよっぽど健全に思えた。
それを思えば、自分にとっての神はセンリの存在そのものだった。
随分とぼけた顔をしている神だったが、むしろそれが尊かった。
「それに、お前は自分の産まれた日を覚えてないんだろう?ならその日を共に祝えばいい。俺の誕生した日で、永遠の愛を誓った日で、そしてお前が降誕した日、だ」
神が降誕した日や、花言葉とかけて冗談を言っているのかは分からなかったが、マダラがいつもの様な意地悪げな笑みではなく、自分に愛の言葉をかける時の慈しんだ瞳で言うのでセンリは胸が熱くなった。
『うん……うん。これからはもっとたくさん祝う。お稲荷さんも五百個くらいつくる』
熱くなりそうになる目頭にどうにか力を入れて我慢してセンリは笑った。
「残念だがそのくらいなら俺は完食できる」
マダラが再び歩き出し、センリもそれに合わせて歩みを進める。自分の狭い歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれるマダラがいとおしかった。
自分が産まれた日が分からずに、百年以上自分を祝う事なんてなかった。
自分は神でもないし、完全な永遠の命でも無い。不完全な存在だ。神のように世界が変えられる力がある訳でもない。過去に後悔もしたし、人を死なせてばかりだ。
それなのに自分の存在を尊いと思ってくれる、祝ってくれようとするマダラがいとおしかった。
センリは隣を歩くマダラに体を近付けて、そっと右手を握った。マダラは一度センリを見たが、すぐにやさしく目を細めてその小さな手を握り締めた。
『家に帰ったらぎゅってしてもいい?』
センリは少し控えめに言ってマダラの手を握りしめる手に力を入れた。
「もちろん、いくらでもすればいい。ふむ……まあベッドの上で裸で抱き合うのが一番いいだろうな」
『……マダラ、歳をとる事にどんどんすけべになってるよ』
「何を言う。男は元々そういう生き物だ。それにお前だっていつも気持ち良さそうにしているじゃないか」
『だ、だっ、だってそれはマダラが…〜……』
「俺が?何だ?」
『マダラがっ、マダラが……悪い』
「ほう?言うようになったな、センリ。今日から十二月二十四日まで毎晩相手をしてやってもいいんだぞ?」
『なっ、〜っ……さっきまですごく優しいこと言ってくれたのに、すぐ意地悪いこと言うんだから…』
「別に虐めているわけではない。お前が愛らしい反応をするからやっているんだ。俺にしか見せない表情が見たくてな。好きだからこその意地悪くらい許してくれてもいいんじゃないか?」
『えっ、う、うん……別に怒ってるわけじゃ、ないけど…』
「(照れているな…かわいい奴)」
こんなに感情が分かりやすい神さまは他にはいないだろうなと思ってマダラはふっと笑った。
[ 121/230 ][← ] [ →]
back