木ノ葉隠れ創設編
-繋がり-
戦争が終わってから二年も経つと、里の人口は創設当初の何倍にもなった。これからもまだ増えるだろうが、急速な人口増加はこの辺りで区切りがつくだろうと柱間は予想していた。
ヤヨイが働いている甘味処も昼時には前よりも人が増え、利益も上がったと喜んでいた。センリが訪れる時にも他に何人か客がいる事が多くあり、賑やかだった。
センリは椅子に座って豆大福を食べながらふと店の隅の方の一角に見慣れない植物の鉢がある事に気付いた。
『ねえ、ヤヨイちゃん。それは何?』
会計の時にヤヨイに訪ねて見ると鉢に植えられた植物を見て少しうっとおしげにヤヨイが溜め息を吐いた。
「何か父が貰ってきたんですよ。観賞用のもみの木らしいんですけど…ハア。地味だし、甘味処に合わないしうちは狭いからって言ってるのに、くれた奴に悪いからって置いてるんです」
『そうなの』
センリは自分の腹辺りまで伸びた葉に触れた。確かに小さく葉もそれ程生い茂っている訳ではなかったが幹はしっかりしていたし形も綺麗だった。
センリはその木の形を見てふと思い出した。
『…ねえヤヨイちゃん。この木にちょっと飾り付けしていい?』
「えっ、飾り付けをするんですか?木に?」
ヤヨイはセンリのおかしな頼みに少し驚いたがウンウンと頷いた。
「もちろんいいですよ。父も私も持て余してた所ですから。でも何で木に飾り付けなんか」
ヤヨイは快諾したがまだ不思議そうな顔をしていた。
『それは出来てからのお楽しみ!じゃあまた明日に来るね!』
センリには考えがあったがそれを知らないヤヨイは首を傾げてセンリを見送った。
約束通り次の日、センリは商店街で飾り付けの道具を買い、再びヤヨイの店に向かった。夕食の時間帯という事もあり店には人がいなかったがかえって好都合だった。
センリは店の入口の端にあるもみの木の前に座り込み、早速飾り付けを始めた。今の里で売っている道具には限界があったが、雑貨屋等をいくつか巡ってそれなりにいい商品を買う事が出来た。
子ども用の玩具店に売っていた手のひらサイズでプラスチック製のボールに針で糸を通したものをもみの木の枝に引っ掛けていく。あいたところの枝の先に赤と銀色の細いリボンを蝶々結びし、薔薇の造花を所々枝の間に差し込む。
「うわあ、可愛いですね」
『でしょう?意外と色々売ってたから』
手馴れた様子で飾り付けをしているセンリの背後からヤヨイが感嘆して言った。少し木に飾り付けをするだけでこんなに変わるものなのかと感動している様だった。
センリが振り返ってヤヨイににっこりしているとそのヤヨイの後ろに見慣れた顔が現れた。
「おお、センリか……ん?何をしているんだ?」
柱間が暖簾をくぐって現れ、続いてマダラも顔を覗かせた。
『ちょっと飾り付けをしてるの』
「柱間を真似て木遊びか?」
木に飾り付けをしているセンリを見て不可解な面持ちをしたマダラが言ったが、柱間は「盆栽は遊びではない」とむすくれて反応していた。
『ふふ、盆栽というより木に飾り付けしてるだけだよ』
「一体何故木に飾り付けなんてしてるんだ?見たところ小さめのもみの木のようだが」
柱間が腰を屈めてその様子を不思議そうに見る。
『えっと……私が前いたところであったお祭なんだけどね。お祭の日が近付くとこうしてもみの木とかに綺麗に飾りを付けるの』
慣れた手つきでリボンを結んでいくセンリを見ながら柱間がほう、と息をついた。前いたところというのが前に生きていた世界だというのが柱間とマダラには分かった。
「木に飾り付けをしてどうするんだ?」
まさかそれを眺める祭りじゃないだろうなとマダラは思ったが、そうではないようだった。
『プレゼントを送りあったりするの。親は子どもにあげたり、恋人同士でプレゼントしたり。“聖なる日”とも言われててね』
「わあ、ロマンチックですね」
聖なる日という言葉にヤヨイは手を顔の前で合わせて感嘆する。
「聖なる日、か。何だか神を祝う祭りみたいだな」
柱間は冗談っぽく言って笑ったがセンリは驚いてその顔を振り返った。
『いや、柱間の言う通りだよ。その日は神さまが降誕した日って言われてて、それを祝うための日なの』
柱間は自分の言った事が当たっていて驚いた。
「そうなのか!そんな祝の日があったのか。だからこうして木に煌びやかな飾りを付けて祝うのだな」
『そうそう。木はもみの木とかが多いんだけどね。もみの木の花言葉は“永遠”だしね』
ヤヨイは更に瞳をキラキラさせた。
「そんな日なら確かに愛する人と過ごしたくもなりますね!素敵なお祭です」
『ふふ、そうだね。家族や友達とか、大切な人と過ごしたい日なんだよね』
今までの飾りと重ならない様に金色のリボンをふわっと掛け、交差するようにさらに銀色のリボンを掛ける。
そしてセンリは立ち上がり最後の飾りを木の一番上に乗せるように置いた。
『これで完成』
「おお、キラキラしてて綺麗ぞ!」
「本当ですね!これならお店に置いておいても…むしろ前よりお店が綺麗に見えます」
てっぺんの星の形をしたオーナメントが夜でもキラキラと光り、幻想的だった。ヤヨイは嬉しそうでセンリも笑みを返した。思ったより完成度が高く、確かにこれなら客引きにもなりそうだった。
「で、その日は一体いつなんだ?」
マダラの問い掛けに柱間もヤヨイも気になってセンリを見た。センリは一度マダラを見上げた後、カラフルになったもみの木に目を移す。
『…十二月二十四日の夜から二十五日が終わるまでだよ。だから二十四日の夜は聖なる夜って呼ばれてるんだ』
マダラは予想しなかった言葉に微かに目を丸くした。
「そうか……ん?マダラの誕生日もその日だったな」
『そう。だからマダラの誕生日を祝うのは何か嬉しくてね』
センリの幸せそうな横顔を見てマダラは少しだけ早くなった鼓動に気付かれないように腕を組んだ。
「あれ……そういえばお二人が正式に御夫婦になったのもその日ですよね?」
そう言ったのはヤヨイで、センリはふと手を止めて考えた。そういえばカルマの前で夫婦の誓約を交わしたのはマダラの誕生日だった。
「確かに…そうだったな」
マダラも覚えていたようで、それを聞いて途端にヤヨイが思い付いたように手をパチンと重ね合わせた。
「それならその日はこれからこうしてお祝いしましょう!聖なる夜…永遠……センリさんにぴったりの日です!」
「それはいいな。オレにとっても嬉しい日ぞ」
ヤヨイの提案に柱間も楽しげに便乗する。
『ふふふ、この世界には無いお祝いの日だけど、柱間とヤヨイちゃんが祝ってくれるなら嬉しいな』
「お店に来た人にも広めてみます。とても素敵な日ですから!」
ヤヨイは喜色満面でうっとりしていた。
「では火影の命でその日は祝日にでもするか!」
柱間は張り切っていたが、マダラがキッと睨み付けた。
「馬鹿な事を言うな」
「馬鹿とは酷いぞ…」
がっくりと頭を垂れてしまった柱間だったが、センリもヤヨイも笑った。
もみの木は店の隅から店の前へと移動され、商店街の電気に反射してキラキラと輝いていた。
ミトへ団子を買いに来た柱間と、それに無理矢理連れてこられたマダラだったが、どうやら帰り道だったようでその場で三人は分かれた。
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