木ノ葉隠れ創設編

-繋がり-


柱間とマダラが里に帰ってきたのはそれから六日後だった。湯の国までは急げば二日かからずに到着出来るので思ったよりは少し遅い帰還だった。

当たり前だが戦闘は無く、護衛の二人の役目はやはり無かったようだ。火影室に戻ってきた柱間の表情を見れば分かったが、どうやら会談はそこそこうまく纏まった様だった。

砂隠れはすでに一尾の守鶴がいるので分配は無しだったが、三尾の磯撫と六尾の犀犬は霧隠れに、二尾の猫又と八尾の牛鬼は雲隠れに、四尾の孫悟空と五尾の穆王は岩隠れに渡ったそうだ。


「皆が友好的に手を取り合って…とまではいかなかったがそれぞれ納得してくれた。尾獣達の取引も何とか済んだ事だし良かったぞ」


柱間は清々しい表情だったが、マダラの方はそうでもなかった。センリもどうかしたのかと首を傾げる。

「…兄者は何かやらかしたのか」


何だか神妙な顔をしているマダラに気付いて扉間が問い掛けた。マダラは一度扉間を見て柱間に視線を戻し溜め息を吐いた。


「いや…。こいつが馬鹿みたく何度も頭を垂れるもんだから他の影共に呆れられていた。挙句に尾獣をタダで他国に差し出すなどと言い出すし…」

「別に戦争が終わるのならばタダでも良いではないか!」


休戦協定の内容としては尾獣を差し出す代わりに他国から幾らかの財を得るというものだったが、柱間がそれをタダで差し出すと言い出し大変だったらしい。


「兄者…」


呆れているマダラと、蔑んだような、いい加減にしてくれとでも言いたげな扉間を見てセンリは苦笑した。


『そこはきちんとしとかないとダメなところなんだもんね。仕方ないね、元気出して柱間』

「うう、センリはそう言ってくれると思っていたぞ…!」


センリが柱間を励ます。ガックリしていた柱間だったが、センリの顔を見てふと思い出した。



「そういえばセンリ、もしかしてお前、尾獣探しをしていた時、岩隠れの忍を助けたりしなかったか?」


柱間の言葉に、そういえば、とマダラも先日の五影会談後の様子を思い出していた。



――――――――――――


少々のいざこざがあったのは確かだが、大きな衝突はなく会談が終了していた。

“国は関係なく皆が協力し合い助け合い……心が一つとなる日が来ると夢見ている。…それがオレの思う、先の夢だ”

そう頭を垂れながら語った柱間の心の内を、マダラは痛い程分かっていた。
それは、最愛の人と最大の友が、心から願っている未来―――そして自分が信じる未来だ。


センリの願いを柱間は背負い、それを会談の場できちんと証明しようとしていた。尾獣についてもセンリの願い通り、よくよく他の影達に言い聞かせていた。その熱意が伝わっているのかどうなのかは、正直なところマダラにも分からなかった。

ただ、その言葉を言うのと言わないのとでは天地ほどの差がある。それが少しでも心の中に残っている事は、非常に重要な事だとも思っていた。


会談が終わるとすぐに解散の予定だったが、柱間が席を立ち、マダラが後ろに控えている護衛達に合図を送ろうとした時、ふと目の前に人影が現れた。土影だった。

もちろん攻撃する訳ではないだろうが、見えない場所にいた猿飛一族の忍は反射的に腰の刀に手を添えた。だが里長である柱間の方は、間抜けにも見えるきょとんとした顔をして土影を見下ろしていた。

十数年ほど前岩隠れとは協定を結んでいた為に今回は木ノ葉隠れには表立って攻撃してきてはいなかったが、それでも終戦まで協定をほぼ無視していた事に対してマダラは、少なからず警戒している節があった。
以前会った時とは随分老け込んだような土影を見て、マダラはその警戒は解かずに柱間に一歩近づいた。


「どうなされた、土影殿」


マダラが何事かと口を開く前に、自分よりも遥かに小さな土影に、柱間が話しかける。
土影は、少々迷ったように一度目を伏せたが、すぐに柱間を見上げた。


「ワシの孫が、木ノ葉の“女神”に世話になったようじゃ」


予想外の言葉に、マダラも柱間も面食らった。その様子を見て土影は言葉を付け足す。


「何ヶ月か前じゃが……森で瀕死の状態だったこの無と――――」


土影は一度振り返って側近の包帯を巻いた男を見やる。無は何も言わなかった。


「ワシの孫の怪我を治癒したそうじゃ。……お主らの里の忍にワシら岩隠れの忍が多数殺された事は、この際腹に収めておく…。ただ、ワシの孫とワシの側近が、女神に命を救われた事だけは事実じゃ。その事だけ、言っておきたかった」


マダラは二人の様子をまじまじと観察していたが、どうやら無の方は土影がこの言葉を伝える事を、あまり良くは思っていないのではないだろうかと察知した。警戒心丸出しの目でマダラを見ていたからだ。その理由をマダラは何となく知っていたが、側近の立場上とやかく言わずにいた。

土影の方も里長のプライド故に気が進まない様子も見られたが、それよりも助けてもらったという事実は彼の中で大きなものなのではないだろうかと、マダラは考えていた。



「なるほど、そうだったか……」


尾獣を探していた時センリが木ノ葉の忍達の怪我の治療や応戦をしていた事を柱間は思い出した。何ヶ月か前、という事は、その時だろう。センリの事だ、自里の忍だけではなく、他里の負傷者を手当てしていたとしてもなんら不思議はない。

本人の口から聞かずとも、柱間もマダラもそれがセンリの行為だろうとすぐに理解していた。


「センリならば、怪我人がどの里の人間であろうと治療するだろう。二人の命が助かったのなら、それが彼女にとっての喜びだろうぞ」


柱間が柔らかく微笑むと、ほんの僅かに、土影の表情も和らいだ気がした。


「……ワシが言いたいのはそれだけじゃ。手間を取らせた」


土影は最後にそう言って、軽く会釈をし、無と共にすぐに姿を消した。


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