- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-火影と側近-


コンコン、と戸を叩く軽やかな音が聞こえて大名たちと向き合っていた柱間とマダラ、それから扉間はドアに目を向けた。


「ん?センリか?」


柱間がふと言うと戸がゆっくり開かれた。
そこにいたのはセンリで間違いはなかったが、一同目を見張った。


『遅れてごめんなさい』


センリが完全に戸から姿を現すと大名の一人がほう、と息を飲んだ。持っていた扇子を落とす程にセンリの美しさは際立っていた。にっこりと微笑むセンリは普段と同じだが、妖艶ともとれる表情でもあった。蝋で作られた人形のように美しさが整いすぎていた。薄化粧であどけない笑みを浮かべるセンリは初めて出会う美しさだった。

マダラは毎日センリを見てきたが、これ程までに綺麗だと再認識したことは無かった。まるで同じ人間とは思えなかった。


『………あの』


一同自分を見たままポカンと口を開けているのを見かねてセンリが不思議そうに訪ねた。採れたての柘榴のように艶々したその唇から発せられたその声で我に返った大名の一人が落とした扇子をいそいそと拾い上げた。


「これは………話に聞く以上の美しさじゃ」


長テーブルの真ん中に座る一番位が高いであろう初老の大名がハッとして呟いた。大名たちの頭には扇子をそっくりそのまま載せたかのような被り物があって大名一族という証なのだろうかとセンリは思った。


「……センリ、ここへ」


柱間がふと自分の隣にある空いた椅子を引いた。背もたれが少し長い。センリはお礼を言ってそこに座る。自分たちの目の前に座るセンリの動作を飽くほど見つめる大名たち。


「光の女神とはよく言ったものじゃな。まるで天女のようよ」


ため息をつく勢いで感嘆して大名が言うのでセンリは少し困ったように笑った。他三人の大名上役もまさにその通りだと頷いた。


『そんな大層なものではありません』


驚いているのは大名たちだけではなかったが、センリを初めて目にした大名たちは穴が開くほどセンリを見つめていた。雪のように白い肌に引き立つ桃色の艶の唇がこれもまた作り物のように美しく開閉する様は何故か見応えがあった。


「容姿端麗にして千手とうちはを凌ぐほどの強さを兼ね備えているとは……才色兼備とはまさにこの事じゃな。千手とうちは、そこに其方の力が合わさり火の国も安泰じゃ」


ほっほ、と高らかに笑う大名たち。多少ズレているような気もしたがセンリも笑みを零した。


「……して、その方の言う火影の件、心得た。良きに計らえ」


大名の一人が柱間へと向き直り、口元を扇子で扇ぎながら言った。柱間の表情が晴れやかになる。


「良き返事に感謝します」


柱間は机に手をつき頭を下げた。大名はうむ、と呟き頷いた。どうやら火影の件は了解を得たようだ。


「ふむ…そろそろ出発しなければ夕餉前の余の遊戯の時間に間に合わんな…」


壁にかけられた時計を見上げて大名の一人が言った。柱間が椅子を引いて立ち上がった。


「それでは護衛の忍たちを呼んできましょうぞ。すでに準備は整っています。どうぞ」


柱間は大名たちを外へと促す。大名はゆるゆると立ち上がりゆったりと外へ向かった。


「ふむ、その見掛けで其方は忍である事が勿体なくも感じるな。どれ、嫡男の正室に入らぬか?」


センリも立ち上がりその場で大名を見送っていると位が高そうな白髪の老人がセンリに近寄る。


『正室…?』

「強く美しい其方からなら良い世継ぎも産まれるであろう…」


その言葉に正室というものが妻になることだとセンリは理解した。


「毎日眺めていたい美しさよのう」


隣からもう一人の大名が舐め回すようにセンリを見るので堪りかねたマダラが前へ出ようとした時センリが笑って大名たちを制した。


『私のような者が入っても大名さまの血が霞んでしまうだけです。私には大名さまたちが行うような国の政治なんていう大儀なことは務まりそうにもありませんし』


自分を下手に置き、大名たちにへりくだって言うセンリの言葉に感心したように大名は弧を描く口を見る。


「なるほど、器も申し分ない」

「火の国も安泰安泰」


大名が口々に言いながら高らかな笑い声を上げた。


『でももし暇な時に呼んでくださればいつでも面白い事をしに参りますよ』


その笑みは花が咲いた少女のようにあどけなく、そして艶やかであった。


「それは良い。それを心待ちにして一日を過ごしているとしよう」


そう言って面白そうに笑いながら大名たちは柱間の後を追って会談室を出て行った。途端に静けさが戻ってくる。

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