- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-友の死-


次の日センリが起きたのは昼過ぎで、さすがに寝すぎたと思って火影邸に急ぐと火影室には柱間とマダラと扉間の姿があった。


「おお、センリ。体は大丈夫か?」

『うん、もう大丈夫。ありがとう』


柱間の問い掛けに笑みを返す。


「本当に尾獣達を連れ帰ってくるとはな…つくづくセンリには驚かされる…」


戦場から帰還したばかりなのか扉間の鎧に付いているファーに木くずがついていた。


「里の忍にも被害があったのは確かだが……恐らくこれで五影会談を開く事が出来る。先程砂隠れと雲隠れからはこちらの要求を呑んで会談に参加すると返事が来たし、他の二里も同じだろう」


柱間の表情は明るかった。戦争の犠牲、特にセンリが不在だった五ヶ月はそれまでより殉職者が多く出た。だがこれでやっと戦争が終わらせる事が出来そうだった。


『会談の日にちが決まったら言って。そうしたら前日に尾獣達を私から巻物に移すから。巻物には一週間くらいしかとどめられないだろうけど…』


会談が行われる前日に尾獣を巻物へと移し、それを他の影達に渡し、各里に到着したら影達がそこから尾獣を呼び出すという流れだ。


「尾獣が抜かれても大丈夫なのか?」

『うん。私の中にはカルマがいるし大丈夫』


この五ヶ月間カルマとの間の封印術は弱まらなかった為意思疎通が出来ずにいたが、カルマも問題無いと言っていたので大丈夫だろうと思っていた。それにどうにか最初に尾獣を封印してから一年以内に目標を達成出来そうなので柱間もマダラも安心していた。


「分かった。これから徐々に戦も収まるだろう。木ノ葉隠れの忍達も里に帰還している。状況が整ったらすぐに五影会談を開こうぞ」


これでやっと戦争が集結に導ける。柱間の穏やかな瞳を見てセンリは一安心だった。


「して、センリ…お前に報告しなければならん事があるんだが…」


任務はとりあえず終わったのでミトやイズナに顔を見せに行こうと考えていたセンリは深刻そうな表情に変わった柱間を不思議そうに見た。

柱間は目だけを動かして隣に立つマダラを見た。マダラは何も言わなかったが微かに黒い瞳が揺れ、次に声を発したのはマダラだった。


「…千手桃華が戦死した」

『えっ、』


言葉がセンリの耳と頭とを通り過ぎて行った。
変な耳鳴りの様な感覚がしてセンリはそれを振り払うように柱間とマダラと、それから扉間とを順に見た。

表情を見て分かった。冗談を言う訳がない。
幾らか遅れてセンリの心臓が脈を打ち思考がそれに追い付いた。

桃華が死んだ。

頭の中で誰かが呟く様な感じがしたと思うとセンリはやっと現実を呑み込めた。


『そう、なの』


喉の奥から何とか声を絞り出した。
柱間もマダラもそれをセンリに伝えるのは辛かったが、黙っておく訳にもいかない。
一体誰に殺されたのだと聞かないところがセンリらしかった。


「すぐにセンリに伝えようと思ったが……心配をかけたくなかった」


自分を思ってそうしてくれた柱間の言葉が頭に蓄積されずにすうっと通り抜けていった。


『…遺体は?』

「一ヶ月ほど前…戦場で爆死だった。遺体は回収出来なかった」


遺体、回収、その言葉達は確かにこの世にもう桃華が生きていない事を意味していてセンリは一瞬目眩がした。それを押さえ込むように少し長めに瞬きをする。


「報告が遅くなってすまん」

『ううん、ありがとう』


申し訳なさそうな柱間にセンリは僅かに笑みを返す。まだ心臓が暑くなっていたが、悲しいのは柱間も一緒だろう。戦国時代を当主と側近として共に生き抜いた柱間の気持ちが分からないセンリでは無かった。自分だけが悲しみを感じている訳では無い。


「実はセンリが尾獣探しに行っている間に霊園に慰霊碑を造った。そこには戦争や任務で殉職した者達の名が刻まれている」


そこへ行っておいでと柱間はセンリに遠回しに伝え、センリにもそれを理解した。


『ん、分かった。私ちょっと行ってくる。…桃華にお礼、言いたいし』


センリは柱間達を心配させないように笑顔を浮かべ火影室を出て行った。センリは仲間が死んでも人前で涙を流す事はあまり無かったが、悲しくない訳では無い事をマダラは知っている。


「お礼、か…センリらしいな……。桃華もきっとあの世でセンリに礼を言っているだろうな」


柱間の言葉にはマダラも扉間も反応しなかったが、同じ事を思っていた。



「……大名用の書状を用意して出してくる」


マダラが言うと柱間が「頼む」と頷いた。マダラが火影室を出て行くと扉間が柱間を見た。


「オレは里内にいる一族の長達に事情を説明してこよう」


扉間もマダラに続いて火影室を出た。

火影邸を出て各一族の住居に向かおうとして、ふとある事に気付いた。


「(…センリに渡すのを忘れていたな)」


ズボンのポケットに入っていた桃華の髪留めを手に握り締めて扉間は進行方向を霊園に変えて歩き出した。
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