- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-尾獣との絆-


その後すぐに、ジメジメした湿林で犀犬を見つけ、牛鬼も切り立った山の奥で発見する事が出来た。

犀犬は身体中から喜びの粘液を出してセンリと触れ合った。犀犬は蛞蝓という姿形からか、その粘液からか他の尾獣達より人間に襲われる事が少なかった様だ。くだけた口調と性格は変わらず、今までで一番素直にセンリの体に入ってくれた。



印象的だったのは牛鬼との再会で、小さな頃から頭が良く思慮深いところがあったが、それは健在だった。人間と友好的というわけではなかったが、それ程憎んでいる様子もなかった。

センリを見て喜びはしたが冷静で、クラマの事を話すと大きく溜め息を吐いていた。


「あいつは一番人間共に狙われてたからなあ…今じゃ憎しみが蔓延るところには九尾が現れるって言われちまうくらいだ。それにあいつは昔から尾の数で強さを決めつける節があったからな……尾獣達からも嫌怨されちまってるというか…。何十年か前には守鶴と大喧嘩してたくらいだ」

『守鶴と……そうだったんだ…。ごめんね』


憎悪に満ちたクラマの赤い目を思い出して、牛鬼のタコの様な尾に座っていたセンリは瞼を伏せる。千年の間自分がこの世界にいたら何か少しは違っていたのでは無いかと思うと悔しく思えた。

だが牛鬼はセンリを責めなかった。


「お前のせいじゃねぇよ、センリ。千年前、お前とジジイがオレ達と人間がいがみ合う事を望んで世界に放った訳じゃねぇって事くらい分かってる。ただ、お前とジジイみてーな人間がいなかったってだけだ」


牛鬼はセンリが座る尾意外をゆらゆらと揺らした。ハゴロモの事をジジイと呼ぶ声がセンリには懐かしく感じた。自分を責めようとしない、獰猛な牛の様な牛鬼の顔を見上げてセンリは『ありがとう』と言って微かに唇を上げた。


「偶にだが…不死鳥の奴も来たな。あいつは相変わらずオレ達の保護者面してやがったが…随分心配してるみてーだったな。ジジイが死ぬ時に呪いをかけられた、とか何とか言ってたが…大丈夫なのか?」


牛鬼の声はかなり心配そうだった。センリはその感情を取り払うように微笑みを向けた。



『そうなんだよね。元気だから大丈夫だよ!ただ、どんな呪印なのか、カルマにも分からないみたい』

「そんな呪いなんてあんのか?」

『カルマが言うにはカグヤ――ハゴロモのお母さんがかけたかもしれないって事だから、相当強い呪いなのかもしれないね』


センリの口調は極めて穏やかだったが、牛鬼は唸るような声を出した。


「ウーン……だがそんな呪いを放っておくのも怖ーな…お前らなら大丈夫かもしれねぇが……―――センリ、もしオレがどこかの国に住まうような事があれば、そいつらにも聞いておいてやるよ」

『ホントに?ありがとう、牛鬼!』


センリは牛鬼の優しさを感じ、嬉しげに笑顔を浮かべた。牛鬼も自然と穏やかな表情になっていた。


「何年経っても変わらねーな、センリは」

『それね、本当によく言われるんだよ!って言っても実際は百年ちょっとしか生きてないんだけどね!―――――って事は、もしかして牛鬼の方が歳上!?』


まるで幼子の様に驚いた顔になるセンリを見て牛鬼は笑いを洩らした。センリの側は、あたたかく、安心する場所だった。


『あんなに小さくて赤ちゃんだったのに…』

「お前もカルマも、昔からオレらをガキ扱いするからなぁ。それはさすがに癪だ……今度からは、もしお前がピンチになったら、オレが助けてやるからな」


センリは一瞬目をパチクリさせた後、『うん!』と大きく頷いた。牛鬼の心からの優しさに気付いたからだ。それならばその優しさには頼りたい。


『みんながこんなに優しいんだって、絶対他の人達にも分かってもらいたい!』


“過去を振り返りはせど、後戻りはしない人間”

かつてハゴロモがセンリの事をそう言っていたのを牛鬼は思い出した。


「お前はオレ達を信じてくれている。ならオレ達だってお前を信じる。信じてみてーんだ。オレだって…人間といがみ合いたい訳じゃねーからな」


センリは牛鬼の尾からピョーンと降りて目の前に立ち右手の拳を差し出した。


『必ず…必ず、ハゴロモが望んだ平和を、みんなで見よう』


同じ様に牛鬼は手を握って前に出した。センリの拳より何十倍も大きな牛鬼の手が触れる。

牛鬼も文句を言う事なくセンリに封印されていった。


これで体の中にいる尾獣は五匹だが、やはり封印をすると体が重く感じる。目に見えない重量が常に体に覆い被さっている様な感覚だったが、持ち前の気力と精神力とで何とかセンリはそれを抑え込んだ。


『(みんな…ありがとう……私を信じてくれて、ハゴロモの言った事を、信じてくれて……絶対、他の人達にも分かってもらう……絶対に…)』



センリの中にいる尾獣達には、センリの思いが痛い程に伝わってきていた。結局、尾獣達もこの道の先に、センリとハゴロモが願った未来を夢見ていた。



しかし木ノ葉隠れを旅立ってから四ヶ月半…牛鬼を見付けてから二ヶ月弱たっても七尾の長明が見付からなかった。砂隠れに封印されてしまっている守鶴を除いても、三ヶ月で五匹を見つけ出せた事を考えるとかなり手間取ってしまっている。二ヶ月の間国々を殆ど隅から隅まで走り回って感知をしてみたが一向に長明の気配が引っ掛からない。

カルマから「長明は幼虫から成虫に変わり羽で空を飛行できる」と聞いていたのでもしかしたら雲の上にいるのかもしれない。 二ヶ月走り回りセンリがそう考え出して、柱間にその旨を伝える書を書いた。


『これ、お願い出来る?火の国の木ノ葉隠れの里の赤い建物…火影邸っていうんだけど、そこまでお願い』


センリは森の中で見かけた鷹を呼び寄せ伝えると、鷹は茶色の翼を広げながら高く鳴いた。センリがその足に小さく畳んだ手紙を括り付けると鷹はすぐさま飛び上がって空高く消えて行った。特殊な力を持たない連絡用の忍鳥ではないので敵に見つかり襲撃される事も無い。

センリはそれから数日の間は一応木ノ葉隠れに向かって走りながら柱間からの返事を待っていた。もし柱間が里に不在でも扉間かイズナか桃華辺りが返事をくれるだろうと踏んでいた。


二日しない内に返事が届きそこには柱間の筆跡で“七尾がいなくても十分だから里に戻ってきて欲しい”と書かれていた。センリはその紙をふっと燃やし、再び足を進めた。

木ノ葉隠れからはかなり離れたところにいたが、それから一週間しないうちに里に戻る事が出来た。尾獣を集めるまで五ヶ月はかからなかった。

センリは木ノ葉隠れの門を潜るまでスピードを落とさず、そのまま火影邸まで直行した。
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