木ノ葉隠れ創設編
-尾獣との絆-
『確かに今は戦争中だけど………目の前に助けられる人がいるのにそれを無視するなんて出来ない』
澄んだ、凛とした声だった。それは紛れもなくセンリの本音で青年は一瞬時が止まったかのようにその表情に釘付けになった。
その言葉には偽りは無いのに、目の前にいるのは敵である他里の忍だという事が俄には信じられなかった。青年はセンリの額当てを確認したが、そこに印されているのは確かに木ノ葉隠れの紋章だ。
「あんた……おかしいんじゃないのか?」
本音がすとんと転がり出たように青年の口から出て、センリはその言葉にはにかんだ。
『それ、この間も言われたなあ』
数日前砂隠れの忍とまるで同じ顔をしている青年を見てセンリは可笑しくなった。
青年は奇妙な感覚を味わっていた。センリの笑みと声はあたたかく、心がほっとした。純粋に、美しいと思った。センリが浮かべる笑みはまるで無垢で、ここはもしかして戦場ではないのではないかと錯覚する程だった。
いつになっても攻撃してこないセンリは本当に自分達を殺す気がないのではないかと思ったし、自分も攻撃する気にならなかった。おかしな話だがセンリに敵意が無いのは明らかだった。
「……血が」
青年はふとセンリの太股付近の布が赤く染まっている事に気付き、先程自分がクナイで刺したことを思い出した。
『ん?あ……大丈夫。これくらいなら何時間かすれば治るし』
センリは自分の足を見下ろして問題ないと言った。血は出ていたがチャクラで止血をしてあるし、先程の青年は力があまり入っておらずそこまで深くは刺さらなかった。それに今日は満月でもないし、センリの治癒力なら一日すれば完全に治る程度の傷。
自分の傷は気にもとめてないのに、敵の傷を治しているセンリが青年にはやはりおかしく見えた。
それ以前に敵の忍と地面に座り込んで話している状況がまずおかしい事に青年は気付いた。だが、その妙な事よりセンリの事の方が気に掛かった。
「…あんたの名前は」
敵の名を聞くのは珍しい事ではなかったが今回のような状況でそれを言うのは青年にとっては初めての出来事だった。
『私はセンリだよ』
そしてその問いに笑顔で答える人間にもまた初めて出会った。青年はセンリという名前を聞いて思い当たる節があった。
「センリって……もしかして不老不死の女神だとかいう…」
何度か聞いた女神という単語にセンリは苦笑した。
『女神ではないけど、歳はとらないよ』
驚いた顔だったがどこか納得している青年の顔を見てセンリは眉を下げる。
『じゃああなたの名前は?』
「………オオノキだ」
少し間があったが青年は名を名乗った。センリはにっこりする。
『オオノキくんか。覚えておくね』
センリはそう言ってよいしょ、と立ち上がった。オオノキは咄嗟に身構えようとしたが体はまだ痺れていた。
『こっちに何人か忍が向かって来てる。チャクラでいうとあなた達と同じ岩隠れの人達だと思う。多分オオノキくん達を助けに来たんだと思うから…私は行くね』
センリには尾獣探しがあったし、仲間が来たとなってはこの場にいる必要もない。
センリは最後にオオノキに微笑みかけてからくるりと背を向けた。
「あっ……」
オオノキが何か言う前にセンリは高い木の枝に飛び移り、瞬く間に走り去ってしまった。オオノキの声は言葉にならずに小さな息となって空気に消えた。
仲間達が到着するまでの間しばらく、オオノキは今あった出来事が夢だったのかとも考えていたが、センリの笑顔は頭にはっきりと残っていた。
「(木ノ葉の、センリ……)」
何故か心が救われた様な気分になっていたオオノキの心を走り続けるセンリは知らなかった。
[ 103/230 ][← ] [ →]
back