- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-尾獣との絆-


尾獣達を探し出す任務は着々と進んではいたが、三日に一度は忍達の戦闘に出くわした。特にどの国でも国境付近は酷かった。森の中で数々の遺体を見なければならない時もあった。

倒れている忍がいれば一人一人確認したが、そういう現場で生き残っている忍は僅かだ。死体を見つければ手を合わせ、動かない体の上に美しい白蘭を作り出して置いた。せめてもの餞だった。忍達が争う様になってしまった原因は自分にもあるのだと思うと悔しく、望んで死んだ忍などいないのだと考えるとやり切れなかった。

しかし悲しんでばかりもいられなかった。


他国の戦闘隊と出会す事も少なからずあった。他里の忍達はセンリの額にある木ノ葉隠れの印を見ると当然攻撃を仕掛けてくる。

センリは無闇に戦闘をしたくはなかったということもあり、相手が少数なら目眩しをして逃げる事もあったし、こちらが攻撃の意思はないと語り掛けても聞いてくれないような忍達の場合は殺さずとも致命傷を与えるだけの場合もあった。時には戦国時代で愛用していた特殊な刀も使った。死に至らない程度の、医療忍者が治せるくらいで加えて戦闘続行が出来ない程度の傷というと簡単ではなかったが、センリが尾獣探しの間に殺した忍はいなかった。柱間の予想通り敵と出会って負けてしまうという恐れはセンリにはやはり無縁だったようだ。


回数は少なかったが、木ノ葉の隊と出くわす事もあった。

もし劣勢であれば助太刀をして、怪我人を治癒したりもした。木ノ葉隠れの忍達はセンリの姿を見ると安心したのか感極まって泣き出す者もいた。木ノ葉隠れの者達がどんなに劣勢でも必ずセンリは敵に勝利した。センリの知らない所で木ノ葉隠れには柱間とマダラと、それにセンリという負け知らずの忍がいるという噂が広がっていた。



しかし、他里の忍であれど怪我を負っている者がいればセンリは治療した。重傷を負い戦えないと判断されその場に取り残されて仲間に置いていかれた忍、怪我人を治療中の忍達も多くいた。センリの木ノ葉の額当てを見て死を覚悟する忍達だったが、センリは決して最後の止めをさすことはなかった。

怪我を負っている忍達はセンリに攻撃しようとしても到底出来る力は無い。口で暴言を吐かれ、「敵に助けられるくらいなら死んだ方がまし」と言われる事も多くあった。だがセンリは敵を治療する事をやめなかった。自害しようとすると者がいれば力ずくでも止めさせた。


「アンタ……馬鹿じゃないのか?敵である忍を助けるなんて…」


砂隠れのある忍に言われた。
最初はセンリの手助けを頑なに拒み、かなり警戒していたくノ一だったが、本当にセンリに敵意が無いと気付くと自分一人だった事もあり、何故か安心してしまった様で攻撃もせずにセンリに尋ねた。


『だって怪我していたから。助けるのは当たり前でしょう』


さもそれが当たり前の事だと言って微笑むセンリを見てくノ一は何やら気が付いたようだった。くノ一は見たところまだ少女の年齢だ。


「アンタもしかして…“救いの女神”?戦国時代から名を馳せてたっていう、木ノ葉の……」


一瞬センリはポカンとした表情をしたが、すぐにはにかみを返した。


『女神?いや、違うと思うけど。私人間だしね!』

確かにくノ一の言うように“救いの女神”というのはセンリ本人の事だった。戦国時代を二つの一族と共に集結に導き、誰も適う事のない程の強さ、それから敵であっても助ける、傍から見れば偽善者のような優しさも持っている稀有さからセンリの存在は他国の忍にも伝わっていた。

センリは否定して笑ってはいたが砂隠れのくノ一は確信していた。本当に珍しい存在だったからだ。


戦争中という事を忘れそうになっていた忍だったが、ふとセンリが笑みをとめて頭上を見上げて耳を澄ます様な仕草をしたので我に返った。


『…誰か近付いてきてるね。これは…さっき会った霧隠れの……。ここにいたらちょうど出会っちゃうな。早く砂隠れに帰った方がいい』


センリは真剣な眼差しでくノ一を見た。曇り空だというのに光を宿している宝石の様な瞳に吸い込まれてしまいそうになりくノ一はつい言葉を忘れた。


『砂隠れはあっち……九時の方向に約二百キロ…。追手はまだここから二十五キロ離れたところにいるから、今から走れば追いつかれる事はないと思う。傷は大丈夫?いける?』


突然センリが顔を覗き込んでくるので一歩後退りながらくノ一は何度か頷いた。

普通なら敵の忍が言う事など信用は出来ない。だが奇妙なことにくノ一にはセンリが嘘を言っているようにはどうやっても思えなかったのだ。


偽りの無い、というのはこういう事を言うのだろうかと思いながらくノ一は自里を目指して走り出した。

センリが他里の忍に及ぼしたのは悪い影響だけでは無かった。
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