木ノ葉隠れ創設編
-尾獣との絆-
穆王を見つければ、彼から聞いた情報も追加されて二尾の猫又、四尾の孫悟空、三尾の磯撫が立て続けに見つけ出す事が出来た。立て続けといってもそれぞれ見つけるまでに数週間とかかる。それでも前回カルマが尾獣探しを遂行していた際よりは早くに見つける事が出来るだろうというくらいだった。
皆センリと再会出来た事自体は歓喜していた。尾獣達が幼い頃共に過ごしていた時期からは千年以上経っている事もありもしかしたら尾獣達が自分の事を忘れているだろうと思っている節もあったが、それは殆ど心配なかった。
センリが消えていた千年の間もカルマが尾獣達と接触を図っていたし、“センリと思われる人間”の噂をいくつか耳にしていたらしい。
本当に人間達を嫌っているのかと思うくらい昔と変わらない尾獣の様子にセンリは安心はしていたが、やはりその根底には怒りや負の感情も存在していた。
猫又は普段穏やかな反面、一度怒ると手が付けられないくらい暴れる事があり、それは人間達に対しても同様だった。自分に攻撃してきた人間は幾度となく返り討ちにして来たと静かに語った。
クラマ程人間を憎んでいる訳では無かったが、センリやハゴロモの様な人間等いないのだと諦めにも似た感覚のようだった。しかし同時に、希望もまだ捨ててはおらず、最終的にはセンリの話にも応じてくれて、文句を言わずにセンリの体の中に入った。
磯撫は元より子どもっぽい性格だったが、大きくなってもそれは変わらなかった。その為人間が襲って来ると無我夢中で身を守る為に攻撃してしまうのでそれを恐れてもいた。
「怖いんだ。僕を狙って襲って来る人間も。この世界も。僕…センリの側にいたい」
甲羅に覆われた恐ろしい外見とは裏腹に磯撫の願いは純粋で切実だった。センリとて尾獣達に辛い思いをさせたい訳では無い。これまでも苦しい思いをして来た事が分からないセンリではない。
しかし自分の側に尾獣達をおいたとしても、他の忍達の尾獣に対する気持ちが変わらなければ意味が無い。尾獣達も人間も、お互いに分かり合えなければ意味が無いのだ。
尾獣を集めて各里におく事が、それを実現する為の前進に繋がる事をセンリもカルマも望んでいた。
磯撫に静かに語りかければ、「センリの言う事なら」と穆王と猫又と同様頷いてくれた。
同意を得るのに苦労したのは山奥の大きな洞窟の様なところにいた四尾の孫悟空だった。小さな頃も自己主張が強く、意思も強固で頑固なところがある孫悟空は一筋縄ではいかなかった。
「俺達を薄汚い人間どもが戦争を止めるためのエサにしようってのか!?センリ、てめーなら分かってくれているって思ってたのに…どうしてだよ!」
ウキキィー!と激怒した猿の様な雄叫びが洞窟内に響いた。その口からは時折呼吸と共に炎が見え隠れしていたが、センリは億さずに赤い躯に近付く。
『分かってる。あなた達が私達人間のせいで辛い目にあった事も。私がいない間もずっと苦しかったよね。本当は人間達を殺したくなんて無かったよね。孫はきっと何もしていなかったのに。力があるってだけで狙われて、嫌だったよね……それは、私のせいでもある』
「……」
穏やかに話すセンリの表情は真剣で、何故他の人間達はこうならないのだろうかと孫悟空の心は怒りと疑問でいっぱいだった。それと同時に自分を恐れず、対等に扱ってくれるセンリの存在が急に嬉しく思えた。
自分に同情の言葉をかけてくれる人間はおろか、言葉で話し合おうとする者さえいなかった。自分を認め、我が子の様に心配してくれた人間が一人いるというだけで嬉しいような、苦しいような、不思議な感覚が孫悟空にはあった。
『ハゴロモも言ってたでしょう。きっといつの日かみんなが笑い合える日が来るって。私はそれを信じてる。誰が何と言おうと。大丈夫…今度は会える距離にいるから。もし本当に嫌な事があれば呼んでよ。そうしたら駆け付ける』
無理だといえる理想を何の躊躇いも無く語れるセンリの姿は懐かしかった。そしていつでもセンリはそれを実現してきた。孫悟空も、カルマから聞いてセンリ達が努力したお陰で今までの戦国時代を終わらせる事ができた事も知っている。
孫悟空は美しい笑みを浮かべるセンリを見下ろした。こうして自分を恐れずに触れられるのは本当に久方ぶりだった。
「…オレは人間共を信用してねェ。それどころか憎い………だが、センリ、てめーの事は信用してるんだ。オレ達を人間と同じように扱ってくれる…大切な存在だ。センリの為になら、オレだって協力はしたい」
『孫……』
センリが孫悟空の前足にそっと体を寄せると、孫悟空は大きな手の平を開き、そこにセンリを座らせてくれた。
「それに、あのカルマの野郎が言い出した事だろ?あいつが訳もなくそんな事を言う奴じゃねーって事も分かってる。あいつは何度もオレの様子を見に来たからな…。あいつのお陰で多少は人間共も近付かなくなった」
『そうだね…。でも、近付かないままだと、私達が分かり合える事はない…。分かり合うには、心を受止め合う事が大切だって、カルマもそう思ってるんだと思う』
センリが孫悟空の手の平から語りかけると、孫悟空はじーっとセンリを見つめ返した。凶悪そうな瞳は、センリにとってはとても愛らしく、懐かしいものだった。
『本当に私のわがままだけど…私は、あなた達と人間達に、心を受け止め合ってほしい。でもこれは…綺麗事だけじゃ実現しないと思う。あなた達にも、辛い道を歩かせてしまうかもしれない』
「んな事………そんな日が来るなんて…オレにはまだそんな事、思えねぇ」
『でも、私は絶対にそういう日が来ると、信じてる』
センリの瞳は昔のままだった。真っ直ぐで、偽りがなくて、澄んでいる。それは“心を受け止め合う”という事をセンリ自身が実行して、そしてそれがどんなに重いものだとしても、本当に相手の心を受け取りたいと願っているからだ。
『私は…この思いだけは、曲げないよ』
孫悟空は眩しそうに大きな瞳を細めた。“陽光姫”と言われていた頃のセンリを、少し思い出した。
「センリ………ホントに馬鹿な奴だ、てめーはよ」
『ええっ!?そりゃあ孫からしたらすごいバカに見えるかもしれないけど…――あ、いや、それ自体よく言われる言葉だけどさぁ…子どもにも言われるけどさぁ…』
「やっぱりそうなのか……」
『そうでしたね……』
孫悟空は呆れたように呟いた後、大きな声を上げて笑った。久しぶりに心から笑った気がした。
「ま、てめーみたいな人間が一人や二人いた方がいいのかもしれねーな……。カルマの野郎も言ってる事だし、少しの間くらいはその案に乗っかってやるよ。ただ……人間達が手酷く扱うってんなら…オレは容赦はしねーぞ」
『本当にありがとうね、孫』
センリは大きな手の平から飛び降りて、拳を体の前に出した。孫悟空は忘れかけていた合図を思い出し、同じように拳を出し、センリの小さな手と触れ合わせた。センリのチャクラはひどく心地よく、孫悟空の中の優しい思い出だけを思い起こさせた。
結局、尾獣達はセンリの事を信じたかった。
自分達を認めてくれる唯一の存在を信じてみたかったのだ。
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