- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-尾獣との絆-


尾獣探しの任務の為にセンリが里を出た日は、朝から秋晴れで驚く位の青々とした空が広がっていた。

見送りに来た柱間とマダラ、それからイズナとミトに送り出されながらセンリはその空の下に旅立った。最後まで心配そうなマダラだったが、一応薄く微笑みを携えて送り出してくれた。いつもより多くの荷物が入った布製のリュックを背負ってセンリは道を進む。


カルマからは事前に前回尾獣達を見つけ出した地点を地図に書き記してもらってはいたが、それも十二年も前の事だ。さすがにまだ皆がそこにいるとは思ってはいなかったが、センリはまず最初にその地点を巡る事にした。


各国は広い。特に水の国以外の五里は壮大な広さだった。センリが広く感知術を使えるとしてもその壮大さの中では豆粒程だ。

センリが旅立った時点ではカルマとの封印術の縛りが強く連携をとれない状態なので苦労する事は目に見えていた。だがセンリの移動スピードと感知力、それから鋭い勘のお陰もあり、思っているよりは長くかからないのではないかとも言えるくらいだった。


尾獣探しをしている最中は、食事や寝床は殆ど自分で確保しなければならないが、センリにとってそれはそれ程難しい事ではない。

ハゴロモ達と過ごした時代を体は覚えている。キノコや森になる実もどれが食用なのか、どれに毒があるのか大体の区別はつく。


『(サバイバル力が割とあって良かったな…)』


広大な地をたださ迷うだけにも見える任務だったが、他の国の地形や特徴を知る事が出来るいい機会でもあった。ハゴロモと途方もない旅をした時にも思ったが、広い地上で天候や地理にはかなりの差がある。

火の国は特に際立った天候の変化も無く、国の殆どが森林や緩やかな丘陵で形成されているので食料にもあまり困る事は無く尾獣達を見つけやすい環境だったが、他の全ての土地がそうではない。

特に砂隠れがある風の国はセンリのサバイバル能力を持ってしてもかなり苦戦した地域だった。広大な国土の多くを砂漠が占めていて、目立つ事に加え、動植物も殆ど無い。


各国に存在している村に立ち寄ったりもした。五大国内にある村の人々はかなり警戒していて石等を投げつけられる事もあったが、どの村の人間も辛抱強く真摯に向き合えばきちんと対応もしてくれる。寝床や食料を提供してくれた村もあった。五大国以外にももちろん国は存在し、戦争の打撃や巻き添えを受けていない国に点在する村の人間達は比較的友好的だった。

そこで得た人々との絆もセンリにとっては大きく重要なものだった。自分が知らない色々な情報も教えてもらう事も出来た。



そして肝心の尾獣達にも接触する事が出来た。

一番最初に出会う事が出来たのは五尾の穆王だった。穆王がいたのは火の国の海域近くにある小さな島で、背の高い杉の木に囲まれた森の中に身を隠すように佇んでいた。センリの姿を見ると一度角を向けて猛進しようとしたが、声と顔とを確認すると途端に目を輝かせた。


「センリ…本当にこの地に生きていたのですね…!」

驚きと感動に溢れた穆王の瞳はセンリが昔見たものと何ら変わりはなかった。数十メートルもある杉の木よりもやや大きな穆王はクラマよりも大きい様に見えた。センリが近寄ると穆王は跪いて巨大な角のある顔を小さなセンリに擦り寄せた。

穆王は人間を忌み嫌っているというより少し恐れている様にも見えた。


センリとの再会を心から喜んでいたが、これから五大国の何処かの里に永住して欲しい旨を伝えると表情が曇った。彼等にとってそれは人間達に服従しているのと同じ事だ。しかしそれによってこれから数々の襲い掛かってくる人間を殺さなくても済む様になるなら穆王は完全に納得した訳では無いがその交渉を受けてくれた。


『みんなが悲しい思いをしてるのは私のせいでもある。でも、きっと人間達もみんなの事を分かってくれる時が来る』


千年も前の記憶の筈なのに穆王にはその凛とした表情も強い言葉もセンリの全てが鮮明に残っていて、目の前にいる陽光姫はその時のブレない意思そのものだった。


「センリが昔と変わらずわたくし達の事を思っていてくれて嬉しい。人間達を信用出来るかは分かりませんが、センリ、あなたの事は信じたい」


センリは微笑んで再び大きなイルカの様な顔に体を寄せた。


『ありがとう』


一体何年ぶりに礼を言われただろうかと穆王は考えたが、そもそも人間に感謝された事などなかった事を思い出した。センリが提案してきたという事はカルマもそれを了承しているだろう事は予想出来た。どうせここに隠れていても結局は人間達が攻撃しに来るのだ。それならばセンリの考えに賛同してみる他ない。


穆王が立ち上がるとセンリは地面に座り込み印を結んだ。穆王の足元に大きく術式が浮かび上がり、光に包まれる様に巨体が輝いたかと思うと次の瞬間には消えていた。それと同時にセンリの体が脈打って一瞬心臓が熱くなった。

術式が消え去ると、センリの首元に黒い勾玉模様が浮かび上がった。


穆王がセンリの体に封印されたという事を意味していた。
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