- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-第1次忍界大戦-


頭を垂れてしまったクラマは失神してしまった様で、動かなくなった橙色の獣をしばらく確認していたが柱間は少し木龍の縛りを弱めた。


『クラマ…』

センリはクラマの兎のような耳をそっと撫でた。先程までのクラマからはまるで憎しみという感情にどっぷり浸かってしまい、そこから出たくても出られないといった縛りの様な心を感じた。

我が子を心配する母の様にその橙色を撫でるセンリに後ろからマダラはそっと近付いた。


「センリがやったのか?」

センリはマダラと同じく近付いて来た柱間を見上げてその問いに首を横に振った。


『暴れて疲れて失神したんだと思う』


「センリ、クナイが」


マダラは右腕に深く突き刺さったままのクナイを見てセンリを心配そうに見つめたがセンリは薄く微笑みを返した。


『大丈夫だよ』

「医療忍術が使える者はいるか!」


柱間もセンリの白い着物が赤く染まっているのを見て後ろの方に待機していた忍達に呼び掛けた。


「は、はい!」


どうやら戦闘が終わったのか曖昧だったらしく分からず、一人の忍がおずおずと進み出て、他の者達もそれに続いてこちらへと駆け寄った。


『これくらい大丈夫だよ』


センリは右腕に突き刺さったクナイの柄を左手で握り、力を入れて引き抜いた。


『っ…』


久しぶりの、刃が肉から離れて行く感触にセンリは一瞬眉を顰める。医療忍者がセンリに走り寄って医療ポーチから道具を出してその腕を治療し始める。そのくの一が止血をしてくれるとドクドクと脈打つ嫌な感覚が止まった。


『ありがとうね』

「いつもセンリ様にお世話になっているんですからこれくらい当然です」


センリが消毒液の痛みに耐えながらもくの一に礼を言うと彼女の表情が和らいだ。


「とりあえず九尾は止められたが…こいつをどうするかだな」


柱間は木遁を維持しながらマダラに向かって言う。クラマは完全に目を閉じ、暴れ出す気配は無かったが、マダラも写輪眼を解かなかった。


「九尾が捉えられる事は滅多に無い。このまま木ノ葉隠れで所持するのが健全ではないか?」


マダラの言葉に柱間も頷く。しかし木ノ葉隠れで所持すると言っても問題はどうやってそうするのか、だ。センリが腕に包帯を巻いてもらうのをじっと見ながら柱間は考えていた。


「柱間!」

すると倒れ込んでいるクラマの後ろ辺りから声がして見慣れた赤髪が暗闇に現れた。

「ミトか」
柱間は少しだけ瞳を開いて近付いてくる妻を不思議そうに見た。


「九尾が現れたと里の忍から聞きました。しかし……どうやらもう戦闘は終わったようね」


里の忍達は少し慌てふためいていたのでミトもそれに気付いたのだろう。


「ああ。だいぶ暴れていたが…センリのおかげで助かった」


確かによくよく見れば柱間もマダラも服が汚れ、所々擦り切れている。戦場からここに駆け付けてきたのだったとミトはすぐに理解した。


「センリ…九尾にやられたのですか?」


ミトが珍しく治療を受けて腕に包帯を巻き終えたセンリを見て心配げに眉を下げる。


『大丈夫だよ!これくらい明日には治る!……それで、柱間。クラマをどうするの?』


クラマ、と聞いて柱間は一瞬何の事だか考えたが、先程九尾の事をセンリがそう呼んでいた事を思い出した。

「うん………そうだな、」


柱間が顎に手をやって静かに言い出したのでマダラもセンリもミトも注目した。


「九尾を捉える事が出来たのは木ノ葉隠れにとっても大きい…。マダラがいうようにこのまま木ノ葉隠れにおくのが一番良いだろう。戦争には利用せずに、どこかに封印しておくのが今の現状では得策かと思っているんだが…それにしたって九尾をどこに封印するか……」


戦争には利用しないと聞いてセンリは安心の息が溢れた。しかしやはり封印するというしか無いのだろうか。センリが悩んでいる様子の柱間を見上げていると応えたのはミトだった。


「私が封印します」


座り込んでいたセンリも、柱間もマダラも驚いてミトを見た。


「うずまき一族に古くから伝わる強力な封印術があります。それならこの九尾でも……。その封印術が使えるのは今のうずまき一族の中では、当主である私の父と、私のみ。私になら…この九尾を封印することができる」

『ミトの中に封印するってこと?』

センリが左手を着いて立ち上がりながらミトに問い掛けると、彼女は深く頷いた。


「しかし、それではミトが…」

「知っているだろう。人柱力になれば、死ぬまで九尾を体から出す事は出来んぞ」


悩ましげな柱間に続いてマダラが鋭く問い掛けた。しかし、ミトは考えを変える気はないようだった。


「私は戦争には参加していません。里の忍達が命を懸けて戦っている中、里内で待っているだけ…。私も何か、あなたたちの力になりたい」

『ミト…』


火影の妻の身ではあるが戦闘要員でなかったミトは、ただ戦争が終わるのを待つ身というのはとても心苦しい事だったのだ。


「柱間、私も、あなたの力になりたい」


愛する人の為に力になりたい。

その気持ちはセンリには痛い程分かった。ミトもミトなりに、彼女が出来る形で柱間の力になりたかったのだ。里を守るという夫の夢に、何らかの形で寄り添いたかった。

了承するかどうか迷っていた柱間だったが、妻の強い瞳を前にして小さく頷いた。


「…分かった。うずまき一族の封印術が特別強固なものだというのはオレも理解している。ミトの気持ちが変わらんというならオレはそれを止めない。むしろ有難い事ぞ。里にとっても、オレにとっても」


柱間がミトの考えを受け入れると、ミトの顔に笑みが生まれた。


『(クラマ……どうか、人間を…)』


柱間が他の忍達に里に戻るように指示している中、物憂いげにクラマを見つめるセンリをマダラは視界に捉えていた。


その後すぐにミトはクラマを己に封印した。金剛封鎖といううずまき一族特有の封印術で、ミトは人一倍封印術に関しては長けていたので今後クラマが術を破り暴れ出すという事はないだろうと踏んでいた。

センリはその事には口を出さなかった。

クラマの事が心配なのは確かだったし、センリとしては封印などしたくはない。

しかしセンリがいくらそう思っていても、他の皆が同じ考えではない。センリにとってクラマは今でも息子のような存在だが、それ以外の人間にとってはただの脅威でしかないのだ。自分の独断や、気持ちを優先していいわけはない。


『(いつかきっと、分かり合える時がくる)』


センリはクラマとの再会で心に刻む事がまた一つ増えた。
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