木ノ葉隠れ創設編
-第1次忍界大戦-
戦争においてはやはりうちは一族はかなり活躍をした。柱間とマダラは時々前線や、強い他里の忍に遭遇した班の所には駆け付けて戦っていたが、特にこの二人の前には敵無しだった。マダラが隊長となり前線に向かう事もあったが、やはり柱間の側近として殆ど共に行動していた為、必然的に共闘する事になる。
十数年前までいがみ合っていた二人とは思えないくらい抜群のコンビネーションを見せ、二人が助太刀に行った折にはもう敵は全滅だと、共に戦った忍達は口を揃えて言っていた。
マダラも柱間も戦国時代と変わらず、誰かに負ける事は無かった。強敵が現れれば柱間とマダラが向かい、里や野戦病院ではどんな重傷者もセンリが治す。それは木ノ葉隠れ…火の国にとっても最大と言ってもいい大きな戦力だった。
だが敵の返り血塗れになって帰ってくるマダラを見て何年か前ようにセンリの心はしくしくと痛んだ。重傷者を見る度に、遺体やその一部が里に返ってくる度に早くどうにかしなければという気持ちが前の戦争時のようにセンリに襲い掛かる。
ただ柱間もマダラも、覚悟を決めた様に、どんな事があっても表情を崩す事は無かった。何人敵を抹殺しても、顔見知りの千手一族やうちは一族達が殉職したという知らせを受けても絶対に泣いたり悲しんだりはしなかった。
だからといって長年共にしてきた仲間が死んでいくのを見るのが辛い訳はない。
その思い出が消え去るのは一瞬で、そしていつでも突然だ。
うちはヒカクが重傷者として里に到着したのは皮肉にもセンリがチャクラを使えない満月の日の夜だった。マダラと共に国境付近で多勢と戦闘を交えていたヒカクは、隊の大柄な忍におぶられて門近くの医療班に運ばれてきた。近くで医療班の道具を整理する手伝いをしていたセンリはその気配にすぐに気づき、彼等の元へと向かう。
『ヒカク!』
力無くぐったりと忍の背に乗るヒカクを見てすぐに誰か気付き、ヒカクをその背から降ろすのを手伝う。すぐに医療班の忍がしゃがみ込んでヒカクの傷の具合を見始める。
マダラも珍しく深刻そうな表情でヒカクの傍らに膝を付き様子を見る。
「これは…酷い」
マスクをした医療班の忍が絶望したように呟いた。
誰が見てもヒカクが瀕死状態なのは分かり切っていた。ヒカクの腹には端から端まで大きく刃物の様なもので切られた傷があり、周辺の服はおびただしい量の血で濡れていた。呼吸はか細く、むしろ生きて帰って来れたのが不思議な位だった。
医療班の忍は唇を噛み締めて一度その傷から目を逸らしたが、覚悟を決めた様にその手を患部にかざし始めた。
『ヒカク、大丈夫だからね』
他の隊の忍達はヒカクがもう助からない事は分かっていた。心痛な面持ちで彼の周りに立ち、それを見守った。
センリはいつも通りの凛とした声でヒカクに言って、血だらけの右手を握り締めるとその手が微かに反応した。
「…センリ…さん……オレは…もうダメだ………自分で……ゲホッ…分かる」
空虚をさ迷う瞳を何とか動かしてヒカクは最後の力を振り絞った。噎せ返る血がヒカクの唇からタラタラと滴った。
『ヒカク、』
センリはより一層握る手に力を入れた。たくさんの血でベタベタだった。センリの声を聞くとこれから死ぬというのにヒカクの心はほう、と暖かくなった。
「オレ…どうしちまった、んだろう……千手の忍を…庇、うなんて……仇の一族、を…庇って死ぬなん、て……本当…笑えるよ…ハハ…」
立ち竦んでいた隊の中にいた一人の忍がヒカクに近付き、膝を付いた。
「オレは、うちはヒカク、あんたを誇りに思う……あんたに助けて貰ったこの命…絶対に無駄にはしない」
千手一族の忍だった。二人の会話を聞いてセンリは理解した。
ヒカクはこの千手一族の忍を助ける為に自分を犠牲にしたのだと。
それが分かると途端にセンリの目頭が熱くなった。
千手の忍の瞳が濡れて光っているのを見るとヒカクは唇の端を持ち上げて静かに笑顔を見せた。いつもの意地悪そうなあの笑みだった。
『ヒカク、偉いね、頑張ったね』
センリは幼子を褒める様に優しい口調でヒカクに語り掛けた。
「ハハ……相変わらず、センリさんは…子ども扱い…してくる………でも…オレは、そんなセンリさんの…言葉に、助け、られてきたんだ………自分を、変える事が出来た……人を、殺してばかりだった……最期に誰かを救えて……よかっ、た」
だんだんとか細くなっていくヒカクの声を聞き逃さない様にセンリは頷きながら必死に聞いた。後ろの方で誰かの啜り泣く声が聞こえた。
「イズナが…寂しがる、かもしれねェな……ごめんな、センリ、さん………あいつの、事……よろ…しく…」
ヒカクはイズナの一番の友だった。
『大丈夫、だよ…!イズナはヒカクの大親友だよ?心配する事なんて、ないから!』
センリが必死に言い聞かせるとヒカクはゲホッと噎せた。治療をしていた忍が眉を潜めセンリとマダラの方を見て首を横に振った。もう無理だということだった。
「ヒカク…」
かつての側近の最期の姿をマダラはしっかりと目に焼き付けようとした。その左手を握り締めると、雪の様に冷たかった。
我慢していた涙が、センリの瞳から一筋零れ落ちて地面に落ちた。
「やめ、ろよ…センリ…さん………お願い…だか、ら……笑っ…て、くれ……」
掠れた呼吸音がどんどんと薄れていく中でヒカクは最期の願いをセンリにかける。
センリはハッとして袖で瞳をごしごしと擦って、笑顔を浮かべた。不自然にならないよう、いつものように自然に。
それを視界の隅で捉えるとヒカクの唇が少し動いて、満足そうに弧を描く。
『ヒカク、本当に頑張ったね。お疲れ様。きっとお父さんとお母さんが待ってるからね。こっちの事は心配しないで、安心してね。うちはの事も、里の事も、イズナの事も……』
ヒカクの瞳が閉じられ、手の力が一気に抜けたのが分かった。
『ヒカク…ありがとう』
センリは安らかに息を引き取ったヒカクの遺体に向かって静かに言った。
千手の忍は涙を流していた。戦国時代で一族が死んでも、忍が嘆くなという教え通り、泣いたりしなかった。だが、涙は止まらなかった。
マダラも瞳が熱くなるのを感じた。
冷徹とも言えた側近が、仇である千手一族を守って戦死した。哀しかったが、ヒカクの勇姿はマダラの心に焼き付いて離れなかった。
あの時忍を庇ったヒカクは多分無意識だった。
仲間を助けたい。
その意思だけで敵に飛び込んでいったのだ。
木ノ葉隠れの忍としてヒカクは立派だった。
何故なら隊の忍達が彼の為に今、涙を流している。皆が悲しみ、そして同じ様にヒカクに感謝している。
ヒカクのした事は無駄では無かった。
幸せそうな最期の表情が全てを物語っていた。
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