木ノ葉隠れ創設編
-ただの友、師弟、夫婦、微かな予感-
柱間の暗殺事件は里には極秘情報として扱われた。里長になったという時点でこういった事案を予期していなかった訳では無いが、あまりにも突然過ぎた。
この事件をきっかけに、扉間は弟子達の修業との合間に術の考案にも力を入れる様になった。飛雷神の術も扉間が自ら発明して使っている程、術の実験は得意な分野だった。
『穢土…転生?』
扉間が今考案しようとしているのはやはりセンリには馴染みのない術名だった。
「死んだ者を再び現世に生き返らせて情報収集させよう、と……?何と言うか、えげつない術だの…」
実験室、という名の暗い部屋で、扉間はセンリと柱間に説明をしていた。
『そんな事出来るの?』
死者を生き返らせたセンリがそれを言うのかと思ったが、扉間は黙っておいた。
「まだ完成するには遠い段階だが……」
暗い部屋の床にはクナイや武器が散らばっていて、実験用と思われる灰色ネズミが何匹か籠に入れられていた。
『…あんまり危ない事はしないでね』
何やら異様な雰囲気を察知して、センリが扉間に言う。
「それは約束出来んな」
扉間はセンリの言葉には頷かなかった。センリは暫く扉間の薄赤の瞳を見つめていたが、扉間にも自分なりの何か考えが有るのだろうかと思ってそれ以上兎や角言わずに息を吐いた。
「まあ、任務や生活に支障が出ないよう程々にな」
寛大とは言えど、柱間も戦国時代を生き抜いた忍の一人。非情な考えを持つ事のある弟の性格も理解していたし、里の為になるならば、と多少の危ない事は容認していた。
柱間とセンリが出て行った後も扉間は実験を続けていた。
「(大体の手順は定まった………後はチャクラの量と、生贄か…)」
扉間は無造作に置かれた机の上に目をやった。そこには柱間が狙われた時に襲ってきた滝隠れの忍の遺体を森の中から探し、そこから採ってきた、血痕付きの毛髪がある。
「(これを……)」
術式が書かれた巻物の真ん中に血の付いた毛髪を置く。失神しているネズミも用意して、床に広げられた巻物の前に座り込み、扉間は穢土転生の印を結ぶ。
「(穢土転生…! )」
すると何処からか塵のような紙屑のようなものが舞い上がり、ネズミの体を覆っていく。実験用のかなり大きなネズミだったが、すぐに塵芥で覆われ、そして…ー。
次の瞬間そこにいたのはネズミでは無かった。人間、と言うにはあまりに人間味の無い、ひび割れた陶器が人間を形どったような、出来損ないの人形のようだった。
「やはり動物ではこの程度か…」
人間の姿ではあるが服は纏っていない状態で、動きもしない、まるで死体のように横たわる失敗作を見て扉間は溜息を吐く。
「(人間の生贄を使えれば、いけるか…)」
穢土転生体を見下ろしながら少々物騒な事を考えていた扉間だったが、ふと壁掛け時計を見てもうすぐヒルゼン達との修業を見る約束の時間が近づいている事を思い出した。
「(遅刻する訳にはいかんな)」
一瞬失敗作を片付けようか迷ったが、微動だにしないそれを見てもう一度溜め息を吐き、扉間はいつものように鍵を閉めて地下の実験室を後にした。
扉間が夜に帰ってくると人間もどきは塵となって崩れ去っていてしまって、どうやら術の完成はもう少し先になりそうだった。
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