- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-ただの友、師弟、夫婦、微かな予感-


しかし絶対的な平和が続くとは限らなかった。

浅葱が学校を無事卒業して、数ヶ月たったある春の日の夜だった。



火影という立場上、柱間が里を離れる事は珍しい。だがその日はミトの故郷である渦の国、渦潮隠れに用があり、木ノ葉にとって最重要と言っても過言ではない同盟国の為柱間自らが渦の国に出向く事になったのだ。

里には分身を残し、渦の国に出向く柱間と共に側近であるマダラはもちろんの事、護衛として里の忍の精鋭達も従え旅立っていったのは事件が起こる数日前の事。


里ができてから戦いや忍同士の揉め事はまだ確認されていなかったので、戦国時代とは違い安心して、センリも笑顔で送り出した。護衛の忍達は念の為身を隠しながら柱間とマダラとは少し距離を開けて里の門から出て行った。



問題はそれから数日後の夜だった。

センリはマダラが不在の為一人で夕食を用意し、それも食べ終わり風呂に入ろうと椅子から立ち上がったその時、突然玄関から声がした。


「センリ…!」


切羽詰まったような扉間の声だった。何事かと思っていたが「来てくれ」と言う少々焦った扉間に違和感を覚え、センリは何かあったのだと理解してすぐに扉間に着いて里を走った。

扉間が向かったのは木ノ葉の病院で、着くなりすぐさま病室に案内された。まず病室に入って目に付いたのが、火影の笠を被って立つ柱間で、すぐ脇のベッドにはマダラが腰掛けていた。しかしその服は血でどす黒く染まり、そしてその瞳は赤く光る写輪眼だ。センリは一体どうしたのかと目を見開く。


『マダラ!怪我してるの?』


センリが驚いてマダラに駆け寄ったが、その首が横に振れたので安心したように溜め息を吐いた。


「これは返り血だ」


怪我はしていない事は分かったが返り血とはどういう事だろうか。センリが柱間を見ると、腕組みをして神妙な表情をした。


「渦の国から帰還する途中に襲われたのだ」


扉間は眉を寄せたままだったが、センリは訳が分からず柱間とマダラの顔とを見比べる。


「滝隠れの連中だった。どこからか柱間が渦の国を訪問するという情報を嗅ぎつけたようで、突然襲ってきやがった」


確かに久々に見る戦いの後のマダラの表情だった。しかし顔はしかめられ、あまり気分は良くなさそうだ。


「多分オレを暗殺しろ、というような任務だったのだろう。言葉を投げ掛けても取り合ってくれんかったからの…」


センリはまさか、というように眉を上げる。
ここ何年かは“殺す”という言葉すら聞かなかったのに、一体突然どうしたのかとセンリは首を捻る。


「それで…その連中はどうなったんだ?捕えたのか?」


話を一通り聞いて扉間は二人に問い掛ける。そういう事態になった時は、捕まえて尋問するのが理想だろう。しかし柱間の表情は芳しくない。


「いや…最初はオレもそうするのがいいと思ったが……」


柱間は長く息を吐き、マダラと顔を見合せた。マダラも何やら神妙な表情だ。


「滝隠れの中でもそれなりに腕のたつの忍達だった。柱間を先に行かせて俺も応戦したが、こっちの護衛の忍が一人やられた。襲ってきた連中は二、三人取り逃がしてしまったが…殆ど殺った。一人は息のある状態で捉えたんだが……ここに来る途中自分自身にかける術かなにかで、自害しやがった」


どうやら柱間は先に里に辿り着き、扉間にこの事を伝えに来たようだった。そして応援の忍を送ろうと思っていたところマダラ達が帰ってきたと続けた。


『木ノ葉の忍が殺されたって事?』

センリの悲しそうな目を見てマダラは一瞬戸惑ったが、頷いた。センリの瞳がゆらりと揺れた。


『…他の人達は?』

なるべく抑えた声でセンリが問うと柱間が「治療室で治療を受けている」と返した。


『私もちょっと行ってくる』


治療室の場所は把握している。センリは二人に背を向けて治療に参加する為に部屋を出て行った。


「一体どこから情報が」

センリが廊下を走るパタパタという音が遠ざかると扉間が小さく呟く。だが柱間にもマダラにも心当たりは無かった。


「分からん。渦の国の連中が情報を漏らすとは思えんし、捕虜も死んでしまったとなっては解決出来ん」


渦潮隠れの者達が情報を露見させた可能性は限りなくゼロだ。ミトが柱間の妻として木ノ葉にいる限りそれが有り得ない事は明らかだったが、その他に分かる事といえば一つだ。


「他の里…特に五大国の里の動向には注意をはらった方がいいだろうな。またこんな事が起こらないとも言い切れん。むしろ……―――」


マダラはその先は言わなかったが柱間も扉間も言わんとしていることはそれとなく分かっていた。

この出来事がまた戦いの火種にならない事を祈るばかりだった。
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