- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-ただの友、師弟、夫婦、微かな予感-


演習場の真ん中にセンリと扉間が向き合って立つ。そこから少し離れたところで子ども達はワクワクと好奇心とで心を踊らせながら二人の様子を見守っていた。


『忍組手、だね?』


センリが髪を結びながら言うと扉間が頷く。二人は片手印を掲げてお互いに向ける。

忍組手は戦国時代の時から一族間で修業を行う場合にも用いられてきた。敵同士としてではなく、味方同士で実力を高め合い、互いの戦いぶりを認め、絆を深めるという目的がある特別な組手だ。

二人が掲げた片手印は“対立の印”と言われ、両手印で術を発動する所作の半分を意味し、これから戦う意志を示している。この組手には武器や術が使う事が了承されている。センリが言う所の“本気のやつ”である。


「それでは、忍組手…」

『始め!』


センリの声を合図に息を吐く暇もなく扉間が突っ込んで来た。扉間はマダラや柱間程の勢いは無いが、それでも力はある方でセンリはその拳を軽やかに避けたが、耳の横でシュッという風を切る音が聞こえた。


『おっ、と』

「センリ、少し鈍ったか?」


攻撃の全てをかわしていたが確かにセンリは本気の組手をするのは久々だった。扉間の繰り出す攻撃を後方に背中から回転しながら避けているとその表情がニヤリと歪んだ。


『そうか、もっ』


素早い蹴りだ。続いて体制を立て直す暇もなくクナイが飛んでくる。地面を蹴り上げてかわすとザッザッザッと地面の土にクナイが突き刺さった。


『(扉間くんはどちらかと言えば力や効果範囲よりスピード重視派だったけど……戦争中より、もっと速くなったな。みんなとの修業のお陰もあるのかな)』


空気が切り裂かれるような音が響く中でセンリは扉間の白い髪を追いながら少し微笑んだ。


「…余裕、というわけ、か!」

普通なら笑顔を浮かべる余裕や考え事をする暇等はない。僅かに微笑みを刻むセンリはまさに余裕綽綽といった様子で扉間は一旦距離を取る。


「(水遁・水龍弾の術!)」


扉間はすぐに水遁の印を結び、龍を形どった膨大な量の水がセンリに向かう。


「(出た!扉間先生の水遁!)」

ヒルゼンが興奮した面持ちで見つめる。水辺等の水分がない場所での水遁は非常に困難だったが、扉間は地面がどんなに乾いていようと大量の水を発生させられる。


『(氷化の術!)』


センリが轟音をたてて向かってくる水龍に向かって手を伸ばすと、そこから扉間の方向へと水龍が一瞬で氷に変わる。ブワッと広がった冷気を感じ、ダンゾウは鳥肌を立てた。一気に水から氷になってしまった龍を見てカガミが「うわあ」と声を上げる。

センリの視界いっぱいに半透明の氷が広がったと思うと、その向こうには扉間の姿がない。


『(氷を盾にして消えたなー?)』


戦で何度か目にしただろう氷遁が出ると分かっていて、扉間は敢えて水遁を繰り出していたようだ。

センリは扉間の存在を感知するように二、三歩下がって立ち止まる。ほんの一瞬、氷がキラッと光ったように見えた。


『(…上!)』


誰かの溜め息の息吹のような、ごく僅かな風の変化を察知したと同時に、頭上からクナイを振りかざす扉間が現れる。しかしクナイがセンリの腕に当たった瞬間、その姿が光る粉雪のようにはらはらと飛び散った。と思うと目も眩むような発光が扉間の目を襲う。


「(光分身か…!)」


センリの光分身は作り出した分身が攻撃されると発光し、文字通り目眩しをする。扉間は限界まで瞼を下ろし、目を凝らす。ヒルゼン達も見た事の無い眩しさに思わず目を瞑る。


「!」


光が一瞬で消え、センリの蹴りが飛んでくるが、鈍い音と共に扉間はそれを腕で受け止め背後に一回転して地面に着地した。チャクラを含んでいる時のセンリの力は半端ではない。砂埃が舞う。周りに目が慣れてくる時間を確保する為にセンリに向かって再びクナイを投げる。


『よっ、』


限りなく無駄のない動きでセンリは避けていく。ヒルゼン達が目で追っていくのがやっとくらいのスピードだが、滑らかだ。


『…!』


扉間が放った一本のクナイ。手の平を離れるその瞬間、他のクナイにはない微かな変化が見えた。


『(飛雷神のマーキング…!)』


扉間の手を離れそれが自分の体まで到達する刹那の瞬間。飛雷神のクナイを普通のクナイに紛れ込ませて敵に放ち、そこへ瞬身の術で移動し敵を斬る、扉間の技だ。

だがセンリはそのクナイを避けずに、突然後ろにクルッと向き直った。

キン!という音がしたと思えば、次の瞬間にヒルゼンの目に見えたのは、お互いにクナイで突き付けあう二人の姿だった。扉間の瞳が驚きで揺れる。


「!」


そしてクナイの刃と刃がぶつかり合う金属音が聞こえた約一秒後、扉間の体には地面から伸びた蔓が恐ろしい早さで絡み付き一瞬で身動きが取れなくなった。センリが操る植物の蔦は気配が全く無い。

センリはにっこりして蔦に絡まれた扉間の目の前にクナイを向ける。


『私の勝ち』


自分の負けを確認した扉間はまいった、というふうに苦笑いを浮かべた。


「そのようだな」


センリは笑顔のままで扉間に絡み付く蔦に咲いた一つの花を優しく撫でると、逆再生したように植物は地面の中に消えた。

二人はどちらからともなく歩み寄り手を差し出し、互いの"対立の印"を前に出し重ね合せ結ぶ。握手をする様なこの形は"和解の印"として仲間である事の意思を示す意味がある。


子ども達はいつ勝ち負けが決定したのか、終わってから数秒理解出来ず、センリがピースサインを向けると意識が戻ったように瞬きをして皆が駆け寄ってきた。

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