- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-ただの友、師弟、夫婦、微かな予感-


火影と側近の繋がりの深さは里の忍の誰が見ても分かるくらいだった。それと同じくして扉間も弟子達との絆を着々と確実なものにしていった。


いつものように扉間達が修業に励んでいるだろう森を切り開いて作られた演習場に向かうと、毎回見るより多い人数が見えてセンリは不思議に思いながらも差し入れが入った籠を持って近付いた。


『みんな、お疲れ』


ホムラとヒルゼンの組手が終わったのを確認してセンリが声を掛けると皆が振り返った。いつもより人数が多いのは確かだったがその中にはセンリの見知った顔があった。


『カガミくんも一緒にやってたんだ』

「はい!学校でやる事はもう無くなったのでイズナ先生が修了して大丈夫って言ってくれたんです」


カガミは癖毛の黒髪に垂れ目、少し低い鼻が特徴的なうちは一族の子どもだ。カガミの両親とはセンリもかなり交流があり、彼がまだ赤ん坊の頃から知っている。

育成施設では基本的には六歳から通える事になっており、各々の基礎的な勉学、忍としての実力が十分と判断されると教員を務める忍が修了を認めてくれる。カガミはまだ七歳だがその実力を認められたようだった。


『そっかあ、おめでとう。よく頑張ったね』


センリがその癖毛をふわりと撫でるとカガミは照れた様に笑った。


『みんなも、お疲れ。差し入れ持ってきたよ』


センリが籠を掲げると待ってましたと言わんばかりにヒルゼンが駆け寄ってきた。


『今日は蜂蜜レモンにしたよ』

「やった!オレ、センリさまの作る蜂蜜レモン大好き!」


飛び上がりそうな勢いでヒルゼンは言うのでセンリはふふ、と笑いを漏らす。


「いつもすまんな、助かる」


扉間に手拭いを渡すとそれで額の汗を拭いながら礼を言った。


『今日はちょっと人数が多いんだね』


集まってきた子ども達を見てセンリが尋ねる。


「みんな最近学校を終えて出て来たんです。カガミ…は知り合いなんでしたっけ。あと、こいつが秋道トリフ」


ヒルゼンは日の光にキラキラと煌めくレモンを口に運びながら少し太った子どもを指した。秋道一族、と聞けばセンリはなるほど、と思った。
秋道一族は陽遁の性質変化に基づく、肉体の質量を増加させるという特別な術を扱う。その為他の忍より体格が良い事が多い。トリフも例外ではなく、その少し赤らんだ頬は笑うと膨らんだ餅のようだ。


「んで、こっちが志村一族の、ダンゾウ。ダンゾウとオレは同い年なんです」


ということはコハルとホムラとも同じ歳かとセンリは考えた。ヒルゼンが指したのはツンツンと逆だった黒い短髪と顎の傷が特徴的な少し鋭い瞳をした少年だった。志村一族も木ノ葉隠れの里の中では目立つ一族だった為センリはすぐに理解した。


『なるほどね。みんな学校を出て大丈夫ってなったから扉間くんと修業してるんだ』


センリの問い掛けに扉間が頷いた。


「術の精度や組手にはまだムラがあるが…しかしその辺の大人よりこいつらは強い」


筒に入った冷水を飲んで言う扉間はどこか誇らしげだった。

遠慮するトリフとダンゾウにもレモンを勧めながらセンリは彼等とも話をした。どうやらダンゾウとヒルゼンは里ができてからの友人で、二人の様子を見る限り、良いライバルといったところだった。カガミも前からヒルゼンの事を話していたし、ここに居る子ども達は中々仲が良いチームらしかった。

子ども達の親の世代の忍とはセンリも知り合いが多い為、ダンゾウの両親とは話した事のある忍だった事が分かった。よくよく見れば少し重たげな瞳には見覚えがあった。

トリフは割と人懐こい子どもだったがダンゾウは少々人見知りをするようで、緊張した面持ちだったが、センリが色々と話し掛けて暫くすると少しずつ表情が解れてきた。


「センリ様は扉間様より強いと聞きましたが…本当にそうなのですか?」


ふと思い出した様にダンゾウが問い掛ける。ダンゾウの目にはどうやら、強い実力を持つ扉間よりも先程からにこやかに自分達と会話をするセンリがまさっているとは映らなかったようだ。すると扉間は薄く笑みを浮かべて小さく頷いた。


「そうか…お前はまだセンリの強さを知らなかったか」

「センリさんは本当に強いぞ」


扉間に続いてカガミが強く言い聞かせるように言うのでセンリは声を上げて笑った。ダンゾウはますます分からなくなった。


「センリは兄者よりもマダラよりも強い。多分、この里で一番……いや、忍一強いんじゃないか?」

『扉間くん、それは言い過ぎじゃない?』


扉間が割と真面目に言うのでセンリは少し可笑しくなった。


「あのお二方よりですか?」


ダンゾウは大層驚いた様子で目を丸くしたが扉間は本当だと頷いた。


『まあ…何年も生きてるからだよ』

「じゃあ、センリ様が何百年も生きているというのも本当の話なのですか?」


ダンゾウは突然センリに興味が湧いたようで好奇心に満ちた瞳を投げかけていた。


『そんなに生きてないよ!百年とちょっとくらい』


そう言うと子ども達はそれを知らなかったのか驚きを隠せない様子だった。


「うわあ……だから里の忍達はセンリ様を敬っているのですね」


謎が解決したというふうにコハルが言うとセンリは苦笑いを返す。


『いやいやちょっと長く生きてるだけでそんな大層なものじゃないよ!様、なんてつけなくていいって、ほんと!』


美麗な顔がふにゃりと崩れるのを見てダンゾウもトリフも少し不思議な気持ちになった。一族の長や大人の腕の立つ忍は無闇に笑ったり謙遜などしないからだ。加えて本当にセンリが忍として強いのか疑問が膨らんだ。


「まだ信じられない、という顔だな。ダンゾウよ」

微かに眉を寄せセンリを見つめるダンゾウに向かって扉間が言うと突然息を吹き返したようにその瞳が動いた。


「いえ……何だかセンリ様がそんなに強いとは思えなくて」

無意識だった様だがハッキリとした物言いにセンリはくすりと微笑む。隣からヒルゼンが「本当につえーんだぞ!」と辛抱強く教えていたがダンゾウは中々頑固なようでその表情は崩れない。


「ならば…久々に手合わせをしよう。センリ、いいか?」


水の無くなった筒を籠に戻し、扉間がセンリに問い掛ける。どうやらセンリと手合わせをする気のようだった。


『ん?もちろんいいよ!本気の組手?』

「そうだ」


センリがにこやかに了承すると扉間は左側の唇の端を持ち上げながら立ち上がる。二人が“本気”の組手をするのは数年ぶりだ。ヒルゼンがワクワクを抑え切れないというように体を揺らす。ダンゾウとカガミ、トリフはもちろんの事、扉間の弟子として長く修業してきたコハルとホムラも興味津々といった様子だ。
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