- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-ただの友、師弟、夫婦、微かな予感-


体の成長が止まるのと同時にマダラの方も「時が過ぎるのが早く感じる」と言うようにもなった。これがカルマの言っていた時間の感じ方が変わるという事かと納得した様子だったが、同時に驚嘆もしていた。センリが何十年も生きているにも関わらず驚く程元気な事にも理解したようだった。マダラはセンリと体の共有も出来ている様で心嬉しくなった。


季節が巡り、任務の内容や、里内の様子も賑やかに変わって行く中で、変わらないものもあった。

柱間が三十四回目の誕生日を迎えて数日過ぎた日の夜、珍しく実務もいつもより早く終わり、夜七時頃には火影室から出られた柱間とマダラは、商店街の居酒屋の個室で晩酌を共にしていた。

こうして二人で酒を交わすのは初めてでは無いが何せお互い暇があまり無いので珍しい事でもあった。今日は客足も少なく、個室という事もあって静かな空間だった。


「…さっきの店員、美人だったな」


つまみを口に運びながら、今しがた酒を持ってきた店員が遠ざかっていったのを確認して柱間がニヤニヤしてささやいた。


「またそれか………お前、本当にガキみたいだな」


何故か幼い頃より子ども心が増したような柱間にマダラは毎度の事ながら呆れていた。


「初心忘れるべからずと言うだろう!いつまでも若々しいのはいい事ぞ!」


高らかに声を上げる柱間は上機嫌で、血色のいい肌が少し赤らんでいた。「自分で言うか」といつも通りに突っ込みながらもマダラの口元には笑みが刻まれている。


「ハァ…お前がそんなんじゃ、ミトも大変そうだな」

「ハッハッハ!確かにそうかもしれんの。しかしオレは、あんな良い嫁を貰えて、本当に良かったと思ってるぞ!」


毎回柱間は酒を呑むと普段より更に陽気になり、声も大きくなって煩いと時々マダラは呻いていたが、何を気にすることもなく二人で酒を交わす場は、愉しいものでもあった。


「……―――お前は、この先も木ノ葉隠れを見守っていくのかあ」

「突然何だ」

ふ、と溜め息と共に吐き出すように柱間が誰に言うでもなく呟くので、珍しく感傷に浸っているのかと思いマダラは薄く笑みを浮かべた。


「いや……ふと思っただけぞ」


柱間は一度マダラを見て、猪口に入った残りの酒を一気に口に運んだ。割とアルコールが高い酒で、喉が熱くなると、柱間の心もじんわりと熱くなって思考が感慨深くなった。


「オレはマダラ…お前に感謝している」


いよいよ酔いで頭がやられたかとマダラはしんみり言い出した柱間を怪訝そうに見た。


「呑み過ぎか?何なんだ、突然。気色悪い」


まじまじと礼を言われるなんて里ができてから初めての出来事だ。だが柱間は上気した頬で微笑を携えていて、それでいて真剣な目付きだった。


「いや、本当の事ぞ。里が出来て、オレがこうして火影としてここにいられるのは、マダラが協力してくれて、オレの足りない部分を補いながら側で支えてくれるからだ。こうしてお前と酒を飲んでいると…数年前まで戦場で戦っていたなんて忘れてしまいそうでの」


光が燈る黒い瞳を見て、マダラは幼い時の柱間を思い出した。柱間の目は今でも少年の時と変わらない、どこか純粋な光を灯していた。


「戦争が無意味だったと言いたいのか?」

鋭い口調ではなく、冗談を言う時のように刺のない言い方に柱間は笑いを返す。


「それはちと違う。あの戦いは無意味などではなかった。いや…無意味だったと思いたくは無い。あの戦いだらけの日々で、オレはお前と出会って…その後は確かに敵として刃も交えた。何度も、何度も……。しかし、その戦ばかりの残酷な日々を、オレは無意味だったとは思いたくないんだ。……これはあまりにも自分勝手かの」


いつもより抑えた声。笑っているのにどこか悲しそうにも聞こえる柱間の声が何故か気に入らなくてマダラは鼻で笑い飛ばした。


「別にいいんじゃないのか、それでも。自分勝手な方が、人間らしいだろう」


馬鹿にしたような声音だったが、柱間にはそれがマダラの精一杯の励ましだと分かっていた。


「…無意味ではない、か。センリが言いそうな事だな」


マダラの言葉には柱間も同調した。

今この時の為に、あの時の戦は必要だった。

きっとセンリも同じような事を言うのだろう。もし戦が必要の無いものだったとしても、意味の無いただの戦いだったとしても、センリは笑ってしまうくらいの綺麗事を、平気で言うだろう。そして自分達は何故かそれに納得してしまう。

マダラは憂いを含んだ瞳で猪口を見つめている。親友の考えている事が何となく分かってしまうようになるのは、柱間にとってはとても幸せな事だった。
そしてマダラにとってもまた、柱間を前にしていると胸の内の言葉を打ち明けたくなるような不思議な気持ちになる瞬間だった。

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