木ノ葉隠れ創設編
-不死になった夫、捧げる愛-
柱間が開いた宴会から数週間後には、うちは一族の者達も二人を祝う場をつくってくれた。料亭の和室をイズナが貸し切ってくれたようで一族の者は四十名程集まってくれたが全員が入れるくらいの広い部屋だった。集まったのは一族の中でも忍の者だけだったが、野菜屋や煎餅屋を営む者達からも祝いの品を沢山貰った。
最初は酒を呑むのを遠慮していたうちはの者達だったがセンリとマダラが勧めると徐々にそれも進み、皆珍しく薄酔いの様子だった。
戦国時代だったからあまり呑まないようにしていたと遠慮していたヒカクだったが、もう戦争は無いし『たまには酔っ払うまで呑みなさい!』とセンリがどんどん酌をするので一時間しないうちに出来上がってしまった。
普段きちっとしていたり、凶悪そうだったり、気難しそうな者が多いうちは一族だったので皆が顔を赤くして笑い声をあげる様子を見てセンリは何故か嬉しくなった。
「しっかし…一族の女神だったセンリさんを娶っちまうなんてぇ、ほんと、マダラさんは狡いお方ですよう」
猪口を片手に完全に酔っ払ったヒカクは普段の口調を忘れてしまったかのように「酔いすぎだ」と言うマダラに絡んでいた。
「お前、柱間みたいな事言うな…」
またこのパターンかと思ってマダラは勘弁してくれと長息を吐く。軽くしゃっくりをしながらこれでもかというくらいマダラに顔を近付けるヒカクを見て、お酒の力は凄いなと感嘆したセンリだったが、自分が呑ませた事を思い出した。
「何?火影もそんな事言ったの?」
柱間、と聞いてヒカクの隣で他の忍と話していたイズナがすぐに反応した。
「ん?ああ…まあな。センリが怖いくらい人気があるせいで最後には取り合われていたからな…」
よく考えるとその中に自分も入っていたが、マダラはそれは言わなかった。
『みんな酔っ払ってたからだよ』
数週間前を思い出してセンリは面白そうに笑った。次の日色々な忍に謝られてヤヨイに至っては最後の方の記憶が無いと嘆いていた。
「姉さんは自分がモテる自覚が無さすぎるんだ。昔からそうなんだから…もっと危機感を持ってくれないとボクも兄さんも困る」
小さな子どもを叱る様にイズナが言うので何だか可笑しくてセンリが笑っていると「真面目に聞いてる?」と怒られてしまった。
『ごめんごめん。そういうとこ子どもの頃からマダラとイズナは似てるよなあって思って』
十代後半頃から自分の方が何歳も歳上なのに心配してくるイズナとマダラは今でも鮮明に憶えている。
「ハア……ほんと姉さんって呑気なんだから…」
もうセンリには何を言っても聞いてくれないと悟ったイズナは長く息を吐いて最後の酒を呑み干した。
「それはオレもずーっと思ってた。ほんとセンリさんは鈍すぎるんだよ!ほら、今だから言えるがキリトがあんなにアピールしてたのも気付かねーで……」
ヒカクに恋路を暴露されたキリトはセンリの斜め向こうから焦って声を上げた。
「ちょっとヒカクさん!勘弁して下さいよ……あっ、いやマダラ様、昔の話ですからね!」
マダラが凄い勢いで睨んでくるのを見てキリトはアワアワと慌てて言った。
「そういえばお前…昔、一度センリを家に連れ込もうとしていたな。俺は忘れてないぞ」
キリトの方もそれは同じで、やっぱりそれかあと思い苦笑いを浮かべた。そういえば、とセンリはキリトの家に誘われた事…というより一度マダラに怒られた事を思い出した。
「もう八年くらい前の話じゃないですか……。あの時本当マダラ様に殺されると思って焦ったんですから」
キリトもその時の事は鮮明に思い出せた。あの時のマダラからは体が動かなくなる程殺気を感じた事は今でも忘れない。
「まあしかし……センリさんに惚れ込む気持ちも分からなく無いさ」
キリトの隣に座るうちはの忍がしんみりと言った。味方が出来て安心したキリトは、まさにその通りだと頷いた。
「センリさんみたいな人は珍しかったから…。誰よりも強くて、それなのに他人を思いやって優しく出来るなんて人は」
酒器の中の透明な液を見つめながらキリトが呟く様に言った。
『そんな事ないよ』
あははとセンリは笑っていたが、その場にいた者達は皆そうだと思っていた。
冷酷で実力を第一に考えて生きてきていた一族が、センリが現れたその日から目に見えて変わったのだ。最初は部外者のセンリを信用していなかった者も多くいたというのに、その者達も今となっては疑いの目を向ける事は無い。
うちは一族の中でもセンリは異端だったがその存在が逆に一族をいい方向へ導いたのではないかとさえ皆思っていた。
しかしセンリはそうだそうだと頷く忍達に向かって首を横に振った。
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