- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-不死になった夫、捧げる愛-


しばらくするとミトは浅葱の元に行くといって宴会を抜けて行った。使用人が寝かし付けているだろうがそれは浅葱の元に行った方がいいだろうとセンリが促すと、柱間に呑みすぎないよう注意して寝室に向かって行った。客間にはセンリが防音結界を張ったので声で起きてしまう心配は無いが子を持つ母としては心配だろうとセンリは快く送り出した。

それから皆は徐々にアルコールが入り、陽気になって話も弾んだ。


「……しかしセンリとマダラが結婚か…。うん…あのマダラがなあ」

頬を赤く染めながら昔を思い出すように天井の灯りを見つめる柱間。


「別にそんなに驚く事じゃないだろう」

こちらも珍しくほろ酔いの様子のマダラが少々柱間を睨み付けながら返す。体があたたかくなってきたセンリも不思議そうにその会話を聞いた。


「いや……オレのイメージだとマダラはまるで女に興味が無さそう、というかなあ」


柱間の言葉に桃華やサスケも同調して何度も頷いた。そういう事かとマダラは軽く溜め息を吐いた。


「お前な…少し前まで戦争中だったんだぞ。そんな事考えてられるか」

呆れたようなマダラに柱間は詰め寄る。


「いやそれでも、里ができた後もずっとそんな感じゃないか。街で美人を見かけても全然反応してくれんし。つまらんぞ」


確かに柱間はそういう事を言ってそうだなとセンリは思って笑った。火影の呆れた発言にサスケは少々驚いていた。


「ハア……そんな事で盛り上がるのはお前くらいだろ。センリ以外の女なんかに興味の欠片も無い」

少々恥ずかしい事をサラッというマダラを見て、センリに相当惚れ込んでいるのは承知の上だったが、酔っている柱間はまるで乙女のように口元を隠した。


『マ、マダラ…』

やめて、というふうにセンリはマダラを制したが気にもとめてくれなかった。


「酔っておるなマダラ!そんな事を堂々と言うなんて!」

「お前に言われたくないし、別に本当の事だ」


柱間より正気のマダラは別にどうということは無いといった様子で周囲だけが驚いていた。


「マダラさんて、意外とそういうタイプなんですね」

話を聞いていた奈良一族の長の忍が大袈裟に驚いたように言った。扉間も目を丸くさせて驚嘆した様子だった。


『そう、マダラってそういうタイプなんだよ…』


思った事を割とすぐ口にするマダラは意外にキザな言葉を言う時があるのでセンリが恥ずかしい思いをした事は数え切れない。


「俺は本当の事しか言ってない」

それのどこが悪いんだと言いたげなマダラの様子に柱間はさらに笑った。


「そういう男の人の方がいいですよ〜。いいなあ、センリさん。わたしもカッコイイ彼氏にそんな事言ってもらいたいなあ」


甘味処の娘のヤヨイはうっとりした表情で頬を両手で挟んだ。どうやら好みの男性にそう言われる事を想像しているようだ。確かに女性からしたら憧れるところも多少あるのかもしれない。


「わたしなんて初恋を未だにこじらせてて………あっ、小さい頃から一緒にいたってことは、じゃあマダラ様の初恋ってもしかしてセンリさんですか?」


惚けていたヤヨイが突然目に光を戻して言った。最初の方はマダラを怖がっていた様子のヤヨイだったが酒も入り恐怖心が無くなったようで陽気に問い掛けた。

桃華もサスケも、扉間までもがマダラを見つめたが、マダラは至って通常通りだった。


「ん……まあ、そうなるな」


ヤヨイはそれを聞くと「いやん」と何故か頬を染めて恥ずかしがった。中々表情を崩さない桃華でさえ口を覆い楽しそうだ。センリは突然恥ずかしくなり、何とか自分達から話を逸らそうとした。


『そ、そういうヤヨイちゃんはどうなの?初恋、とか…』


するとヤヨイは遠い昔を思い出すように目線を上にあげた。


「わたしの初恋は…名前も知らない男の子です。森で遊んでいた時に出逢って……でもその子は忍だったからわたしなんかと仲良くしていい立場じゃなかったんです。親達からも言われてて……一緒に過ごしたのは少しの間だったけど、でも!わたしは今でもいつかその人に会う事を夢見てるんです!甘味処で働いていればいつか会え、るかもしれなひって思って」


最後は少し呂律が回らないようだったがヤヨイは意思のこもった瞳で本当にそれを熱望していた。情が深いセンリと柱間は神妙に頷きながらそれを聞いていた。


『絶対会えるよ。その人もきっとヤヨイちゃんと同じ事思ってるはずだよ』

「そうだそうだ!もしかしたらすでにもう木ノ葉にいるかもしれんしな!」


まるで自分の事のように真剣に言ってくるセンリと柱間に感動したようにヤヨイは目を潤ませた。二人に何か同じものを感じたのは扉間だけではないだろう。


「ありがとうございます…!わたし絶対諦めません!………あの、じゃあ火影様の初恋とか…聞いてもいいですか?」

火影という立場の柱間に若干畏まっていたがほろ酔いのヤヨイは唐突に訪ねた。柱間も嫌なようではなくむしろ昔を懐かしむように顎に手をやりうーんと唸った後清々しい笑顔を浮かべた。


「オレの初恋の相手はセンリぞ!」


「えっ?」

「!」


その言葉に周囲は一瞬動きを止め、センリは飲んでいた水を吹き出しそうになって慌てて飲み込んだ。急いだ為大量に飲んでしまい鈍痛が走る喉を抑えて、驚いたように柱間を見た。驚嘆している皆を見て柱間は楽しそうに笑った。


『あはは、勘弁してよ柱間』

苦笑いを浮かべて全く信じていない様子のセンリに名前を呼ばれると嘘ではないと手を目の前に掲げた。


「本当ぞ!」

「あの頃か…」


マダラには心当たりがあったようで若干睨み付けながらも納得していた。幼い頃柱間とセンリと三人で会っていた時だろうとすぐに想像出来た。


「えっ、ウソウソ、火影様の初恋の相手がセンリさんだったなんて信じられない!」

「初耳だな」


ヤヨイに続いて桃華も驚いた様に言った。センリはまだ信じていないようだが、周囲は何となく分かってしまった。


「まだオレが子どもだった時の話ぞ〜!子どもの頃、こんなに優しい美人が近くにいたら普通ドキドキするだろう」


酔っているとはいえあの時の柱間がそんな事を思っていたなんて知らずにいたセンリは突然聞かされた事実に動揺していた。


「兄者らしいな…」

扉間は驚き、というより呆れているようだった。


「でも分かりますわ、火影様の気持ち。センリさんの美しさは同性のわたしでも見蕩れる時がありますから…」

「確かにな。最初に戦場で見た時は一瞬攻撃するのを忘れてしまったくらいだ」


山中みのりに加えて桃華までもがまじまじと自分を見つめて真剣に言ってくるのでセンリは苦笑して頬を掻いた。


『勘弁してよ、みんな。酔いすぎ!』

こういう言葉を中々真面目に受け取ってくれないセンリだったが柱間は何度も頷いて言い聞かせた。

「皆、本当に思ってる事ぞ!」


柱間がセンリに近付いて説得するので、センリの隣に座っていたマダラがその腕に手を回し、自分の方に少し引っ張って寄せる。


「俺のセンリだ」


ヤヨイがまたときめいて「きゃっ」と言う前に柱間が反応する。


「マダラは昔からセンリを独り占めしすぎぞ!」


柱間は口を尖らせて駄々をこねる様に言う。


「文句あんのか」

柱間に反抗するようにマダラは喧嘩腰なのでセンリが『ちょっとマダラ』と手で制した。


「む!センリは里の皆のものぞ!」

何故かムキになる兄に「兄者…」と呆れながらその肩を叩く扉間。


「確かにそうだな。センリはマダラだけのものではない」


そこに参戦してきたのはまさかの桃華で、こちらも少々酒が入っており普段より大胆になっていた。


「何だと?」

予想外の刺客にマダラも反応する。センリの腕を掴む手に力が入る。


「そうだそうだ!独り占めは良くない!」

「あっ、コラ柱間!センリに触んな!」


柱間が反対側のセンリの腕を引っ張るのでマダラはそれを引き剥がす。


「マダラはケチぞ〜!独占欲が強い男は嫌われるぞ〜」

「うるせえ!おい、だからセンリから離れろって!ミトに言い付けるぞ!」

「別にいいぞ!ミトだってセンリの事が大好きだからな。もちろん浅葱も!」

「だからってセンリに触るな。殺すぞ!」

「おいマダラ、写輪眼になるなんてズルぞ!」


『分かったから二人とも落ち着いて』


マダラと柱間は本気でセンリを取り合っていたが、他の者達にはただの仲の良い三人のじゃれ合いに見えた。まさかあの火影と、近寄りがたくも思える側近のこのような姿が見られるとは思わずにいたため、皆笑った。

そこに桃華までもが参戦して、しばらく攻防戦が続いたが、夜も更けてくる頃には愉しかった宴もようやく一段落ついた。
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