木ノ葉隠れ創設編
-不死になった夫、捧げる愛-
それから何日か後には、センリとマダラの婚姻を祝う集いが柱間の家で行われた。柱間達の家の客間はかなり広くつくられているので祝いの宴を行うにはうってつけだった。
畳の上に長テーブルがいくつか置かれ、その上には里の料亭の料理人が腕を振るって作った豪勢な料理が並べられた。
ミトが渇望するので、センリはミトの手で化粧をしてもらい、マダラと共に皆が待つ客間に向かったが、障子を開けてすぐマダラはため息を吐く事になった。
「おお!主役の登場ぞ!さあ、こっちに来い来いー!」
「いや…何でお前はすでに酔ってんだ柱間!」
さすがの突っ込みを入れマダラは、宴を始めていないにも関わらずほんのりと頬が赤らんですでに酒が入った様子の柱間を見て呆れた。
「すまん!待ちきれなかったのだ」
両手をパシッと合わせて謝罪する柱間だったがその顔は楽しげに笑っている。
『あはは!まあまあいいじゃない、マダラ。楽しんでくれてれば!』
センリが柱間を庇うのは気に入らなかったがまあこうして自分達を祝ってくれているのだからと、マダラは文句を呑み込んだ。
柱間はマダラの腕を掴み、強引に皆の前に引っ張って連れて行く。
「今日はマダラとセンリの祝いぞ!みんな、楽しんでいってくれ!」
「…って、だから何でお前が仕切ってんだ!」
二人の掛け合いに集まった忍達は皆笑った。
柱間はさあ、とマダラとセンリを上座に座らせ、酒を注ぎ、乾杯の号令をかけた。
こうして集まって宴会をするのは里ができてから初めてだった。
柱間とミトはもちろん、扉間に桃華、それから里の忍一族の長達もほとんど揃っている。それにセンリと仲が良い商店街の人間にも柱間は声を掛けていた。
「センリとマダラの祝いだと言ったら里中の者が来てしまうかと思ってオレが厳選して招待したんだ!あまり人数が多すぎてもいかんだろ?イズナやうちはの者にも声をかけたんだがな、“こっちはこっちで考えてるからいい”って言われてしまってな…」
そう言って柱間は幼い頃のように大袈裟に肩を落とす。
『うちはの人達もやってくれるって言ってたからな……でも柱間、私達の為に本当にありがとう。みんなも、忙しいのにありがとうね』
センリは柱間を元気付けるように笑顔を向けて、集まった者達にも礼を述べた。
「当たり前ぞ!大事な友の結婚と聞いて黙っていられる訳ない!」
「そうですよ。センリさんとマダラ様が里にとってどれだけ大切な存在か…。二人のご結婚を祝えるなんて光栄です」
柱間に続けて猿飛サスケが若干目を潤ませながら言葉を続けた。
「本当にめでたい事ですわ。本当なら火影様の言うとおり、里をあげて祝福したいくらいです」
山中一族を治めていた山中みのりは敵の情報を収集する能力に優れたくの一で、戦時中からセンリやマダラの事をよく知っている人物だった。里ができてから一族の長として交流がありマダラ達より少し歳上で、桃華程ではないがセンリがたまに食事を共にする仲だった。
彼女の隣には桃華がいてその言葉に本当にその通りだと頷いていた。
「センリさんの結婚祝いに誘ってもらえるなんて…本当に名誉な事です」
サスケよりも瞳を潤ませながら感動しているのはセンリが常連客として通っている甘味処の娘で、忍でもないのに招いてもらった事に感謝しているようだった。
『こちらこそ、いっつも美味しいあんみつもお団子も、ありがとう。ほら、気にしないで食べて、呑んで!』
「そうだぞ!宴くらい無礼講で行こうぞ!」
娘の隣から柱間が酒を注ぎ、それを促した。
「兄者……無礼講はいいが羽目を外し過ぎるなよ」
相変わらず冷静な扉間が呆れ返って注意するが柱間は気にもしていない。
「大丈夫だ!……ほれ、センリも呑め!」
祝われる対象だというのに酌をしているセンリの手を止めて、柱間は酒の入った透明なグラスを差し出した。センリの瞳の様な黄金色が光る酒だ。
「千手一族では代々婚姻した時に蜂蜜酒を送る風習があってな。集落も森の千手、と呼ばれるくらい森に囲まれていてな…忍の他に養蜂家も多いんだ。センリは酒を呑まないと聞いていたからアルコール度数が低いものを選んできた!」
どうやら他の蜂蜜酒とは違う特別仕様でセンリの為に柱間が持って来てくれたようだ。この世界に来てから約百年経ったがセンリは一度も酒を口にしていなかった。
「とても美味しいですよ。お酒が苦手な方でも呑みやすいと思うわ」
センリの前に座ったミトがにこやかに言った。センリは感心しながらグラスを口に持っていき、少しだけ傾ける。
『ん…………美味しい!』
一口呑んでみると蜂蜜のほんのりとした甘さと控えめな酒の味が口に広がりセンリでも呑みやすい口当たりだった。美味しそうに二口、三口と酒を呑むのを見て柱間もミトも嬉しくなった。
『ほんとに美味しいよ!百年ぶりくらいにお酒呑んだなあ』
「百年?そんな長い間呑まなかったのか!今日は記念すべき日だな!」
そう言って柱間は楽しそうに笑った。
「ほれ、マダラも呑め!」
「分かった、分かったから引っ付くな!」
「酷いぞ!こんな日ぐらい甘やかしてくれたっていいだろう〜」
「………」
「どうだ?美味いか?」
「…ん、確かに呑みやすいな。発酵具合も申し分無い」
「そうだろう、そうだろう!さすがマダラぞ!」
「だからいちいち触るな!」
料理は美味で、こんなに賑やかで楽しい夕食は初めてだった。まさか戦争で戦ってきた敵の一族達が自分の結婚を祝ってくれる時がくるなどセンリは思ってもいなかった。
マダラは距離が近い柱間を自分から引き剥がそうと始終必死だったが、二人の姿は幼い頃見た姿そのものでどちらも愉しげだった。
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