- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-不死になった夫、捧げる愛-


それから一週間後、センリとマダラはカルマが作りだす異空間にいた。封印術の縛りがそれ程強くはない時で、カルマに結婚の事を伝えるとこの空間に飛ばされ、その後すぐにマダラも姿を現した。


自分以外の人間を連れてこられるとは知らなかったのでセンリは驚いたが、カルマは「婚姻の儀を行う」と言って人間からいつもの鳥の姿へと変わった。マダラも少々驚いた様子だったが、それを聞くと何か理解したようだった。


「一度夫婦として契約を結べば以降、これを解く事は出来ぬ。それは分かっておるな」


人間の時とは違う、地の底から響いてくるような低音に体の芯が震えたが、マダラは表情を崩さなかった。


「分かっている」


センリもマダラの隣に並び大きなカルマをしかと見上げ、『私も、分かってる』と発言した。

カルマは並ぶ二人を見下ろし、その表情をじっと観察した。センリはいつもながらに偽りの無い瞳だったが、マダラの事をまだ信用した訳では無かった。しかしこの二年間、マダラの気持ちが少しも揺らがなかった事も事実。

写輪眼ではないのに威圧を感じるくらいの視線を受けて、カルマは小さく頷いた。


「了承した。御主らの絆がそうそう解けないだろう事も、誰かに断ち切られる事もないだろうと、我も思っておる。御主らを夫婦と認め、誓約をする」


カルマが言い切るとセンリはマダラを見て嬉しそうに微笑み、マダラも笑みを返した。


「この先御主らの気持ちが離れる事は許されぬ。良いな?」


二人は揃って頷いた。


「それでは…」


カルマは小さく呟いて鉤爪のある大きな翼を広げ、マダラとセンリの上に掲げた。影が落ち、頭上が白銀に輝く翼で埋まったかと思うと、二人の頬の辺りを微かに風が通り過ぎた。不思議な温度だった。


「……!」


体の中があたたかくなったような、奥から何かが溢れ出てくるような、奇妙な感覚がマダラに走って思わず自分の手の平を見つめる。マダラが何事かと驚いているうちにカルマの羽根が遠ざかっていった。


「うちはマダラ、これより御主の身体の成長は止まるだろう。外見に関して歳を重ねる事はなくなり、時間の感じようも変わる」


マダラの身体中にチャクラではない何かが湧き上がってきたが、それが不死の力だと感じると体が納得した様にその力に馴染んだ。


「我の力はセンリに留まったままだろうが、御主の体は歳をとることはなくなる。しかしその力が、どの程度不死に関係しているかは…我もまだ分からぬ。こうなるのは、初めての事だからな……。戦う時に置いては急所をつかれても死ぬ事はなくとも、心臓を刺されれば永遠に目を覚ます事がなくなるという事態になるやもしれん。今まで通り気は抜くな」


カルマはマダラに向かって神妙に言い聞かせた。マダラは深く頷いた。センリは黙ってその様子を見つめていたがふと視界に映ったものがあった。


『カルマ、これは……』


センリが自分の左手を見つめているので不思議に思ってマダラは何があるのか覗きこんだ。

「誓約の証……御主らが夫婦だという証だ。生涯消える事は無い」


その時違和感を感じてマダラが自分の左手を見るとセンリと同じ状況だった。

左手の薬指の付け根に、指を囲む様に銀色の輪が印されていた。結婚指輪のようだが、指輪を形どった呪印のようにも見えた。


『この指だと、本当に結婚指輪みたいだね』
センリが自分の左手を眺めながら言った。

「何だ、それは?」

この世界、この時代で結婚指輪をする事は主流ではないのでマダラが不思議そうに問いかけた。


『私がいたとこではね、結婚してる人たちの多くが左手の薬指に指輪をはめるんだよ。これは指輪じゃないけど…なんだかそれみたいだなって』

センリがいやに愛おしそうに印を撫でるので、マダラはつい微笑んだ。


「その印がある限り御主らは繋がり合い、互いに命に関わる事態になれば反応して察知できるようになっている。まあ…それぞれがピンチになったらそれが分かる、と言ったところか。御主らの力を考えれば、それが役立つ事はないかもしれぬが……」


相手の緊急事態が分かる、という事だとセンリもマダラも理解した。


「御主らは共に世を生き抜く共同体のようなものだ。この世界では存在は異端かもしれぬが、どんな事があっても離れずに、支え合って生きてゆけ」


切なるカルマの願いだった。それはマダラには、どうかセンリを支えてくれという哀願にも聞こえた。隣を見るとセンリは真剣に頷いていた。


『うん。どんな辛い事があっても…私は、マダラと一緒に生きるよ』



今までも辛い事ならたくさんあった。思い出せない過去もある。しかしそれでもマダラとなら、これからどんな過酷な目にあっても乗り越えていけるだろうとセンリは思っていた。マダラとなら、不幸になったっていいともいう、覚悟の気持ちだった。



「……?」



センリの言葉を聞いた時、マダラはまた不思議な感覚に陥った。

今度は体の奥から何かが引っ張られて出ていく様な、小さな棘が取り除かれた様な妙な感覚だった。何とも言い難い奇妙な感じだ。

それが何かは全く分からなかったが、何故か清々しく、また生まれ変わったのではないかと思う感覚だった。


「(…!……まさか、インドラの魂が……?)」


その微かな異変に気付いたのはマダラだけでは無かった。カルマの研ぎ澄まされた感覚にも妙な手応えがあったからだ。目の前にいる男は確かにマダラだったが、今までとは何かが違うような、カルマでしか分からないような、本当に僅かな異変だ。


「(やっと……愛情を受け入れ合えた、という事か……)」


直感だったかもしれない。

勘だと言われれば確かにそうかもしれない。だがカルマにはそれが、マダラの中に燻っていたインドラの一部が剥がれた様に感じた。



「(センリ……御主は、本当に……)」


目の前のセンリは美しい微笑みを浮かべ、マダラを見つめていた。いとおしいものを見る、慈愛に満ちた瞳だった。

彼女の偽りの無い真っ直ぐな愛が、無意識にマダラを変えていたのかと思うと感動にも似た感情がカルマの中で広がっていった。


この世界にはまだたくさんの課題がある。

しかしセンリなら……澄んだ心を持った彼女なら、この先の未来を良いものにする事が出来るのかもしれない。


見えない愛に包まれた二人は、カルマの印象に深く深く残るものだった。
[ 70/230 ]

[← ] [ →]

back