木ノ葉隠れ創設編
-不死になった夫、捧げる愛-
冬の、風が冷たい夜。
マダラの三十回目の誕生日まであと一週間に迫った日だった。
少し遅めの夕食だったが、数日ぶりに二人一緒にベッドに入ることの出来たその日の夜、数分でセンリが夢の中に旅立ってしまう前にマダラはその体を背中から手を回して抱き締めていた。
「センリ、覚えているだろうな」
寝る時に、特に寒くなってくる季節になるとマダラがこうしてくっ付いてくるのは珍しい事では無かったが、その時のマダラはいつもとは違う様子だった。
『何を…―――』
しかしそこまで言ってセンリはもしや、と思う事があった。しかもそれは当たっていた様で、次にセンリが口を開く前に少し抑えたマダラの声が首の後ろ辺りから聞こえた。
「あと一週間程で、二年だ」
何の期間か、なんて聞かずとも分かる。センリはマダラの方を向こうと思ったが、腹に回された腕に力が入れられたので動けなかった。
「この二年で分かっただろう。俺の気持ちは変わらない。この先変わる事も、絶対に無い」
二年前言った台詞は、センリの頭の中に鮮明に残っていた。マダラの声は静かだったが、真っ直ぐ真剣で、顔が見えずとも真面目に言っている事はセンリにも分かった。
『マダラは本当に……本当に私と結婚していいの?』
訳もなくセンリは心臓の鼓動が速くなるのを感じた。二年間待ってくれとは言ったが、それがこんなにも早いものだとは思わなかった。もう少し年数を多く言っておけばよかったとセンリは後悔したが、それはもう遅いようだった。
「当たり前だ。この二年で……いや、その前も含めて、お前ももう分かっているはずだ」
マダラの声音が少し変わった。センリは腹にあるマダラの手を握る手に力を入れた。
『一度夫婦になったらもう、離れられないよ』
センリの方も真剣だったが、マダラもそれは同じで、それなのに中々答えを出さないセンリに痺れを切らし始めていた。
「しつこいぞ。お前は何をそんなに躊躇っているんだ」
二年前もそうだった。
確かこうして同じように布団の中で、その時にセンリは二年間待ってくれと自分に告げたのだ。あの時もセンリは自分の心配をして答えを先延ばしにしていた事をマダラは思い出した。
『だ、だって、私と結婚したせいで歳を取らなくなって、何十年も生きる事になって、離れたいと思っても無理で――しかもそのせいでマダラの人生が辛いものになっちゃうかもって考えると――――』
少し焦った様に言い始めたセンリの言葉を途中で遮る様にマダラは体を起こし、細い肩を掴んで上を向かせる。突然視界が怒った様なマダラでいっぱいになり、センリは驚いて目を見開いた。
「俺の人生をどう生きるかは自分で決める。お前が心配するような事は一つも無いし、それに、俺の事を思ってお前が自分の気持ちを隠すような事もしなくていい」
長い前髪がセンリの鼻を掠めて、マダラの双眼が見えた。その瞳の力は強く、切実さが痛い程分かってセンリは一瞬言葉が出なくなった。
「俺にとって、お前の存在が一番優先して考えたいものなんだ。お前の側にいられるならどんなに辛い事だろうと、悲惨だろうと残酷だろうと……もしまた戦の世になろうと、俺は幸福を感じるだろう。どんな過酷な現実があっても、お前がいるなら、それだけでいい。お前がいるだけで俺は…道を違う事なく生きていけるだろう。お前と……センリと共に生きたいんだ」
『マダラ…』
その言葉には少し覚えがあった。二年前と同じだ。自分と生きていきたい、という心からのその言葉にセンリは思わず息を呑んだ。それ程までに…こんなに切ない表情をするくらい、マダラは自分を愛している。
思い出せば二年間、マダラはずっと自分を思い、一緒にいる時間が少なくなってもいつも愛の言葉をくれていた。
「俺と結婚してくれ、センリ。これは願い―――いや、これは俺からの要求だ。お前は何も考えずにこの要求を呑むだけでいい。分かったと言えばいいだけだ。深く考える必要はない…………俺がこんなにも懇願しているというのに、それを断るはずは無いな?センリ」
それは要求じゃなくて命令なのではないかとセンリは思ったが、そうだとしてもマダラの目は真剣そのものだった。
『…それは、ずるだよ』
マダラの言葉に観念したように言って、いじけた様に唇を尖らせるとその表情が和らいだ。
「狡い、だと?俺の気持ちは変わらないと言っているのに、二年間待てだなんて言うお前の方が狡くはないか?」
センリは言い返せなかった。
「そんな事を言うなら……」
困った様に眉を下げているとマダラに手首を掴まれ、体を引っ張り起こされる。布団が上半身から滑り落ち、ひんやりとした寒さに肌が震えた。
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