木ノ葉隠れ創設編
-帰還した不死鳥と、体の謎-
センリと柱間が協力して執務にまた取り掛かり始めた時、カルマとマダラは誰もいない商談室に到着し、そのドアの鍵を内側から閉めた。ここに来るまで二人とも一言も発しなかったが、まだあまり物がなく殺風景な部屋の真ん中に置かれたソファにマダラが近づいたかと思うとすぐに言葉を発した。
「センリの事についてだが」
マダラの方は気になる事を早く聞いてしまいたいという様子だったが、カルマは軽く手を上げてそれを制した。
マダラは無表情を少し崩して眉を寄せながらも一旦口を噤み、部屋のドアに向かって何やら手を近付け始めたカルマを観察した。カルマは片手で壁に向かって撫でるような仕草をする。暫くすると部屋を囲むように何かの力が張り付いていくのを感じて、それが結界だという事をマダラは理解した。
「外へ我らの声が聞こえないよう、誰もこの部屋に入らないよう結界を張った」
そういうふうに結界を使えるのかと関心したマダラだったがそれよりも頭の中にあるのはセンリに関わる重要な事柄だった。
「…で、御主が聞きたいのはセンリについての何だ?」
マダラの方も格段普段と変わった様子はなかったが、カルマもそれは同じで、二人の間には微かな緊張感はあれど余裕があるように感じた。
「その言い方だとまるでセンリに関しての謎がいくつもある様な口ぶりだな」
ソファには座ろうとせずにドアから少し離れたところに立ち動かないカルマに向かってマダラは言った。マダラの言葉を聞くとカルマはセンリと同じ金色の目をすうっと細めた。
「さすがは目ざとい…いや、耳ざといな」
嫌味混じりの口調にマダラは眉を寄せる。言い返そうかとも思ったが、目の前にいるのは年端もいかない美少年と思いきやあの不死鳥だ。
今でもその体から発生している禍々しいチャクラは肌にビリビリと感じ、心のどこかで逆らうなという警鐘が聞こえてくるくらいだ。マダラは少し感情を押さえ込んだ。
「…センリの事だが、お前はあいつの体の仕組みを知っているのか?あいつの体の中の水分が治癒の力や医療忍術に関係していると言ったようだが…それは一体どういう事だ?」
カルマが特に驚いた様子でないところを見るとやはりセンリの事について色々と知っているようだとマダラは思い、その表情を伺うように見つめた。
「なるほど。御主は気付いたか」
感服するような、しかしどこか安心したような口調だった。気付いたか、とはセンリの体液が甘い事に関してなのか、またはそれ以外なのか分からずにマダラはただカルマを見た。
「………御主は、心からセンリを愛しておるのか?」
自分の質問の答えとは全く違う言葉をカルマが言うのでマダラは眉間のシワを深めた。
「これからもどんな事があってもセンリを愛し続けられると、心からそう言えるか?誓えるか?」
カルマが何を言いたいのか分からず、質問に答えろと返したかったが異常なくらい真剣なその瞳にマダラは小さく頷いた。
「…当たり前だ」
簡単な言葉だったがその声には言葉以上の思いが込められていた。その言葉の真意を探るようにカルマはマダラの瞳を見返した。どこからどう見ても嘘のない、そして真っ直ぐな眼だった。
暫くしてカルマはふと部屋の隅に視線を移した。
「…………センリの体は特異だった」
静かな声だったがマダラの耳には嫌にはっきりと聞こえた。
「センリの体の中を巡る体液には確かに治癒の力がある。涙や血液には特に、な。センリの体液が他の人間と違い、甘味が含まれている事も知ったのだな?」
カルマは部屋の隅からマダラへと視線を戻す。マダラは黙って頷き、再びカルマの声に耳を傾けた。
「センリには不思議な力があった。意識しなくても人間の欲を引き付けてしまうという、な。センリの体を巡る体液の甘味…それは欲を引き付ける香りとなって、人間達の方も無意識にその香りに誘われてしまう」
唐突で真実味のない説明だったが、それで納得してしまうのは不思議な事だった。マダラは尚もカルマを見つめていた。
「しかしまあ、今現在では脅威になるレベルではない。その為に我がセンリの中に入っておる。あの子は認識していないだろうが、我がセンリの中に居ることによりその力を上から押さえつけている」
ここまでのカルマの説明を聞いてもマダラはまだ全てを理解出来なかった。
「御主の恐れている事は何となく分かる……センリの体液に治癒の力がある等という事が知れ渡ればセンリは必ず狙われる。悪用しようとする輩は何処にでもおる。それでなくともセンリは人間達を惹き付ける。我がこの力を押さえていなければすぐにでも人間達の汚い欲望の餌食になる程にセンリの力は大きい」
そこまで言うとカルマは大きく息を吐いた。
「……センリは自分がこことは違う世界から来た、などと言っていたがお前はその事についても何か知っているのか?」
カルマの口ぶりはセンリの事を事細かく、そして昔から知っているというような感じだ。
カルマは相変わらず悠然とした態度でマダラを見ていたが、結局口を開いた。
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