木ノ葉隠れ創設編
-はじめてを、ぜんぶ-
「それはそうと……」
その事を考えているとそういえばとマダラはある事を思い出した。少し腕を緩めて『どうしたの?』と自分に問い掛けるセンリの体を離す。
「お前、自分の汗―――体液が人と違う事知っているか?」
マダラがセンリについて疑問に思って聞こうと思っていた事だ。センリは一瞬惚けたように瞬きをして首を傾げた。これはどういう事か分かっていないなと察知してマダラは言葉を足した。
「お前の唾液やら汗は何ていうのか…少し甘い。それから涙もそうだったな。普通それらの体液は甘いはずはない。自覚していたか?」
唾液に始まり涙まで甘味がする事をマダラは伝えたがセンリは二、三回その顔を見つめて瞬きをした後天井の方に視線を変えてうーんと唸った。その様子を見る限りやはり自覚は無かったのかと再度マダラが問おうとするとセンリが口を開いた。
『血が甘いのは知ってたけど…汗とかもそうだとは知らなかった…』
センリはそれほど驚くことも無くそう言ったがマダラの方はまさか、という顔をしていた。
「血もそうなのか?」
センリはそれにコクリと頷くと自分の腰にあるマダラの腕を外し、くるっと後ろを向いて台所の方を向いた。何事かとマダラが思っているとセンリは台所の上に手を伸ばし、包丁を手に取った。
その包丁の刃先にチャクラを込め、自分の人差し指に向けるとすぐにその指の腹から血が滲み出た。センリは少し血が滲んだ指をマダラの口元に持っていく。舐めてみてという事だと理解したマダラはその手首を掴み、鮮やかな赤色を口に含んだ。
「ん……確かに甘いな」
センリの血は涙や他の体液と同じ、菓子などの嫌に甘ったるい味ではなく、何かの花の蜜のようなどこか懐かしいような、やさしい味がした。
マダラがその事を確認するとセンリは曖昧に笑って切った人差し指を反対の手の平で撫でるとまるで何も無かったかのように傷と血が消え去った。
『カルマは私の体の水分に治癒の力がある、みたいな事言ってたからもしかしてそれと関係してるのかな?』
マダラはそのような事を過去にセンリが言っていた事を思い出した。そういえば人の欲がどうの、等も言っていたな、と続けて思い出す。
「十尾……不死鳥が帰ってきたらその事を聞いてみるか…」
センリはそれがそれほど重要であるというふうには捉えていないようだったが、マダラは少し気になっていた。
『詳しく聞いたんだけど、あんまりよく分からなかったからなあ…』
センリが大きくため息をついて呟いた。センリは楽観的なところがあり、それはマダラも心配の種ではあったので、反省しているような姿を見て少しは理解してくれたかと微かに微笑んだ。
、と思うと突然マダラの顔を見る。
『………お腹すいた!』
今度はマダラがため息をつく番だった。
センリがこういう性格なのは前々から知っていたし、他人の事となるとよく心配するくせに自分の事にはあまり興味がないのも分かりきったことだった。それなら自分が何とかしてやる他ない。
「この事は他に誰か知ってるか?」
夕飯を並べ始めたセンリに問いかけると、その手を止めうーんと、考える。
『カルマと…それからマダラだけだな』
少し考えた後センリがそう言うのでマダラは胸を撫で下ろす。血や涙に治癒の力があるなんて知れ渡れば、すぐさま狙われるだろう事は目に見えている。
「なら他の者には絶対口外するなよ。信用できる数少ない人間…イズナや柱間以外には特に、だ」
センリは一瞬不思議そうな顔をしたが首を縦に振った。従順なところはマダラにとってはいい事だが、それが他の人間となれば話は別だ。
『分かった…気をつけます、大佐!』
センリは敬礼の姿勢をとると大真面目にそう言った。
昨晩の艶かしい姿はどこへやら、いつもの調子を取り戻しているセンリに何故か笑いがこみ上げて来て、それを隠すようにマダラは椅子に座りなおした。目の前に並ぶ夕飯を見ていると途端に腹が減った。
「お前のような部下がいたらと考えると……とんでもないな」
『えっ、なんでよ?すごく強いよ?』
「確かに強いが……頭の方が少し弱いだろうが」
『やっぱそうだよね…。頭の外はものすごく硬いんだけど、中身がね。中に何が詰まってるんだろうね?味噌じゃなくて塩かもね!』
「っ、飯食ってる、時に、笑わせるな…!」
『なんだって?まずい!堪えろ!がんばれマダラ!飲み込んで!マダラなら出来る!』
「…………お前みたいな部下は絶対嫌だ」
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