- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-火影と側近-


頂上につけばそこからの景色は今まで見てきたものとは確実に違っていた。見渡す限りの森だった場所には色とりどりの家々が立ち並び歩く人々が小さく見える。遠くの方にセンリたちの家も、その先の川も見える。柱間、センリ、マダラはいつかのように並んでそれを見渡していた。


「覚えてるか?ガキの頃にここで話したこと」


柱間が景色を見ながら横に立つ二人に問いかける。


「ああ」

『もちろんだよ!』


センリはもちろんのこと、マダラにとってもそれは色褪せることのない思い出だった。



「分かった!…ここにオレ達の集落を作ろう!」

「その集落は子供が殺し合わなくていいようにする!子供がちゃんと強く大きくなるための訓練する学校を作る!個人の能力や力に合わせて任務を選べる!そんでもって……」

『(柱間……)』

「依頼レベルをちゃんと振り分けられる上役をつくる!子供を激しい戦地へ送ったりしなくていい集落だ!」

「フッ……そんなバカなこと言ってんのお前ぐらいだぞ」

『マダラはどうなの?』

「ああ……悪くねえ。その集落をつくったら弟を……一望できるここからしっかり見守ってやる」

『よーし、じゃあ私は二人をさらに上から見守っててやるー!』



センリの頭にはまるで昨日のことのようにそれが蘇る。幼かった二人の、大きな夢。それはこうして今現実になっている。隣を見ればあの時とは違う、大人になった二人がいた。


「アレはただの夢の話だと思ってた……掴もうとすれば出来ないことはなかったってのに、俺は…」


マダラはそう言って飛んできた葉を器用に掴んだ。今までずっと諦めたふりをしていた、夢。隣でセンリはずっとそれを追いかけていた。そして友も。そこに自分は手を伸ばすだけで良かったのに。それだけで掴めたはずだったのに。それがこんなにも時間がかかってしまった。


『でも今ちゃんと、現実になったんだよ』

「そうだぞ。もう夢ではない」


マダラはセンリを、そしてその隣に立つ柱間を見やる。二人の表情は清々しかった。同じくらい長い白と黒の髪が風に吹かれてなびいている。


「火の国を守る影の忍の長………名を火影。どうだ?」


ふと柱間が言うとマダラもセンリも不思議そうな顔をした。


「何だそれ?」

「火の国から里の代表を決めるよう要請があったんだ。それを伝えたくてな」


マダラの問いに柱間がそう返した。柱間がマダラとセンリを探していた理由はそれだったらしい。そして柱間は隣に立つセンリに向き直った。


「センリ、お前に長をやってほしい。火影を」


唐突な申し出にセンリは驚いてその黒い瞳を見つめたが、それは冗談を言う目ではなかった。


「センリがいなければオレとマダラが望んだ夢は叶わなかった。うちはの者も千手の者もセンリを慕っている。センリが長になれば誰もがそれを認めるだろうぞ」


柱間は本気だった。困惑したように眉を寄せるセンリ。


「確かに……センリが代表になれば誰も文句は言わないだろうな」


マダラが口を開いたので反対してくれるのかと思ったら全くの逆だった。センリは少し困ったように眉を下げたまま、二人を交互に見る。そして口を開いた。



『いや………火影になるのは柱間、あなただよ』


静かに、しかしはっきりとした口調でセンリは柱間に言う。


「しかし……」


柱間が渋ったように何か言い返そうとするのをセンリは手で制した。


『だって、一番最初にこの里を望んだのは柱間……あなただよ。柱間はずっとこの夢を諦めずに、戦い続けてきた』


センリはあの時の夢を語る柱間の輝いた瞳を思い出して、まるで母のように微笑む。


『火影になるのは私じゃない。柱間だよ』


一際強い風が吹き抜けてセンリは流れる髪を耳にかけた。マダラは無意識に口角を上げていた。センリらしい、言葉だったからだ。


『でも、里を守るのは火影ひとりじゃない。火影は柱間。だけど…』


センリは柱間から目を離し、マダラを見上げ、その背中に手を当てる。


『マダラも一緒だよ』


マダラは微かに目を開き、穏やかに話すセンリを見下ろす。優しく細められた金色の瞳とぶつかった。センリは右手をマダラの背に、左手を柱間の背に当てる。


『二人で一緒に、だよ。柱間が火影になっても、一人じゃない。マダラはずっと、柱間が描いた夢を望んでた。あの時のマダラはすごく嬉しそうだったもん。たぶんどっちか一方が欠けてもこれからの未来は守れない。でも二人ならきっと出来る』


かつてハゴロモが二人の息子たちに望んだ未来。二人で力を合わせるという未来。今度こそは見たかった。


「センリ…」


柱間は呟いてセンリから目をマダラに移す。かつて戦い続けてきた友は今同じ目線で未来を見ている。そしてセンリは二人で共にあることを望んでいる。


『言ったでしょう?私は二人が夢を叶えるのを、一番近くで見ていたい。これは、あなた達二人の描いた夢だから』


そう言ってはにかむセンリは幼い頃の記憶と何ら代わりはなかった。美しさも、その言葉も。いつもセンリの手は自分たちの背中にあり、そして後押ししてくれていた。柱間も笑みを返す。


「センリ……お前がいたから、オレたちの夢が叶ったことには変わりはない。火影にならなくとも、この先もオレたちを側で見守っていてくれるか?」


柱間の問いに迷うことなくセンリは頷いた。


『もちろんだよ!…それにマダラは小さい頃から「俺は誰かに後ろに立たれるのが嫌いなんだ」とか何とか言ってうちはの長だって渋々やってたくらいだもんねぇ』


マダラの声音を真似しようと出来るかぎり低い声を出しながらセンリがニヤッとすると柱間は笑い、マダラはそれを睨み付けたが何とも言えない和らいだ表情だった。

器が大きいというか、物事を広く考えられる思考を持っていると思えば、次の瞬間にはこうして悪戯っ子のような笑を浮かべる。マダラはずっと幼い頃から変わらないセンリの姿を見て何故だか安心した。

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