- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-はじめてを、ぜんぶ-


初めてを経験した次の日、センリが目覚めるとベッドの上には自分一人しかいなかった。


『(い、いつの間に寝たんだろう……全然、覚えてない……)』


日の光が窓から射し込んで来て瞼を開け、センリは眠気眼をごしごしと擦る。数秒ぼーっとしていたが、考えるとそもそもマダラより遅く起きる事はない。センリは突然焦って、時計を手に取った。


『じゅ、十、時……』


起床時に今まで見た事の無い数字を差していた。こんなに朝寝坊をしたのは初めてだ。いつもは朝食を作ったりする為に六時から六時半には起床している。短時間でも眠りが深いセンリだったが、その分朝はアラームがなくても大体決まった時間に起きることが出来ていた。

センリは顔を引き攣らせて盛大に溜息をついた。


あれでいて意外に優しいマダラの事だ。大方、寝ている自分を起こすのは気が引けて先に起きて仕事に向かったのだろう。
声を掛けたのかもしれないが、一度寝ると恐ろしい程爆睡状態になってしまうのはセンリも自分自身で分かっていた。気付くはずもない。


『う、いたたた……』


体を起こすと股の間にずくずくと鈍痛が走った。咄嗟に下腹に手をやると、あるはずの布の感触がない。センリははっとして自身の体を見るとこれまた起床時には見たことが無い、寝巻きを着ていない自身の身体が目に入った。布団がとてもあたたかく、全く気付かなかった。


『(ゆ、夢、じゃない…)』


体を包む痛みをじんじんと感じて、急にセンリは昨晩の事を思い出した。


『(私、マダラと…)』


最愛の人に初めてを捧げられた事、体も繋がれた事、昨日の出来事全てが何故かとても幸せを感じた。下半身の鈍痛はそれを思い出すとより痛みを増した気がしたが、センリは術で治すことはしなかった。この痛みも、夜が訪れる頃にはなくなってしまうのだろう。センリは愛おしげに自分の腹をそっと撫でた。

幸せな痛みだった。


『(……もうちょっとここにいよ)』


隣にはもうマダラの温もりはなかったが、布団にもぐっていると確かにその存在を感じた。初めての経験にセンリは嬉しくなってふふふと一人で笑いながら、たまには遅くまでゴロゴロしていてもいいかなと思いしばらく布団に潜り込んでいた。


昼からはさすがに家事やらをしなくてはまずいと思い働いていたが、やはり遅起きすると夕方までの時間が早く過ぎる気がした。影分身に庭の作物達の世話を任せ、センリ自身は洗濯や食事の準備の最低限済ますと街に出る暇もなく、気付けば日が暮れていた。


『(今日は特に予定がなくて良かった)』


時たま自分を呼びに暗部の忍や扉間が屋敷を訪れる事があったが、幸い今日はそれがない。それは確かにラッキーなことでもあったが、遅くに起きるなどあまり慣れないことをするものでは無いなと思いながら夕飯を作り始めるとすぐに、マダラが家に帰って来た。


考え事をしていたらマダラが玄関を開けたことに気付かなかったようで、気配がすると思ったら台所に立つ自分の後ろに立っていてそれにセンリは少し驚いた。


『わ、おかえり』


いつもは玄関に迎えに来たり、『おかえり!』と声がかかるところだったが、センリがまるで気配に気付かず、驚いた表情をして自分を見上げるのが可笑しくてマダラは半笑いで「ただいま」と返した。

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