- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-固まりゆく里の地盤とうちはの石碑-


それからの月日は瞬く間に過ぎ、ミトの誕生日やひな祭りも過ぎ去り、季節は日に日に春に近付いていった。朝が来る度にだんだんと暖かくなっていくのが分かるくらいだった。

三月が過ぎてもカルマは帰っては来なかったが、日が立つにつれて里は賑やかさを増したし、計画していた里の病院も建てることが出来た。相変わらず火影室での仕事は忙しかったが、内部で揉めることも無く着々と里の地盤を固めていた。


四月になるとセンリが編んだマフラーの出番は無くなったので、きちんと畳み次の出番まで箪笥に仕舞われた。それに炬燵布団も押入れに仕舞われた。暖かくなってくると何故か町も活気的になる。浅葱と遊んでいても修業で体を動かしていても額に汗が滲むくらいだった。


マダラとセンリが二人で歩いていると度々柱間は茶化して来たが、それもだんだんと当たり前の光景になりつつあった。マダラの隣にはセンリが、センリの隣にはマダラが。二人は昔から変わらずの近い距離で毎日共に過ごしていた。


柱間はそんな二人の様子を見るのが嬉しかったし、誰よりも応援していた。マダラと食事を共にする事も楽しみの一つでもあった。


―――――――――――――――

川原にも花々が咲き誇るようになった四月のある日、マダラは突然土の国に行くという任務を受けた。

土の国、岩隠れの里も内部が確実なものになって来たらしく、木ノ葉の里と同盟を結ぶためマダラが派遣されるのだ。しかしそれには柱間も一緒だった。二人は同盟協定の為に土の国に行く事になったので少なくとも五日は帰らないだろうとマダラはセンリに伝えていた。


『明日から土の国だね。楽しんできてね!』


風呂上がり、センリがマダラの隣に腰掛けて言った。ソファーの上でまだ少し濡れた髪を手拭いで拭く。


「おい、旅行しに行くんじゃないんだぞ」


友だちと旅行に行くのを送り出すようなセンリの言い方にマダラは苦笑した。


『ふふ、分かってるよ。でも他の国に行くなんて楽しそう。いいなあ』

「そのうち行けるさ」


マダラの返事を聞くとセンリはにんまりした。そして髪を拭く手を止めて手拭いを首に掛ける。そして立ち上がり、マダラの手を取ってぐいっと引っ張り同じくソファーから立ち上がらせた。


「?」


マダラがセンリの行動に首を傾げていると、突然センリが手をグーの形に握り、こちらに向けてきた。


『手を挙げないと刺すぞ!』


クナイを掲げている、という事だろうか。センリは怒った様な顔をしていたが、全く怖くない。


「いきなり何だ?」

『いいから手を挙げなさい!刺されたいのかっ』


何事かとマダラは思ったがセンリの下手な、必死な演技に失笑してゆっくりと両手を上げた。センリはそれを確認すると満足そうに笑った。

そして間発入れずにマダラの無防備になった腰に手を回し、ぎゅっと抱き着いた。突然胸にセンリが顔を埋めているのでマダラは少し驚いたが、すぐに状況を理解した。手を挙げさせたのは抱きつく為だったのかと分かると途端にセンリにいとおしさが込み上げた。


『五日は会えないんでしょ?今のうちにくっ付いとくの』


少し顔をずらしてもごもごとセンリが言った。マダラはふっ、と笑ってその体に手を回した。


「…それもそうだな」


そう言うとマダラは体を再びソファーに倒した。するとくっ付いていたセンリは『わっ』と驚いて何とか離れようと力を込めたがマダラが離さないので、倒れこまないよう咄嗟にマダラの足の間のソファーに膝をついた。ソファーがフワフワと微かに沈んだ。
マダラはそれでもセンリの背中に手を回し、離さないのでセンリは仕方なくそのツンツンとした髪を撫でた。マダラの胴にぴったり付いてるのでとても温かい。

『いきなり危ないよ』


マダラの力が緩んだ隙を見てセンリはその肩に手をついて体を離した。至近距離でマダラがニヤッと笑っていた。これは何かよからぬ事を考えている時だとセンリが気配を察知して身を引く前にマダラはその体をソファーに押し倒した。センリは短く悲鳴をあげて目を瞑った。ぼす、という音をたててセンリの背にソファーの柔らかな感触が広がる。


「五日も離れるんだ。そんなんじゃ足りないだろう?」


天井の電気がマダラの顔と体で隠れる。えっ、とセンリが声を発する前にマダラの唇が降ってきた。軽いリップ音をたてながらセンリの顔に口付けを落とすマダラ。頬、額、鼻筋、瞼の上。それぞれに絶え間なく唇の感触。


『ふふ、マダラ、くすぐったいよ』


唇が頬を掠める感覚とそれに伴って降りてくるマダラの長い前髪ががくすぐったくてセンリは体をよじり、顔を逸らした。しかしそれでもマダラの唇が追ってくる。


『んうっ』


マダラがセンリの顔を追いかけたかと思うと次は唇に柔らかな感触が当たった。そしてマダラはセンリの下唇を自分のそれで挟んではむはむと甘噛みするので、センリは恥ずかしいより何だか可愛くて笑ってしまった。自分の唇に挟まれたセンリの下唇が横に動いて弧を描くのでマダラはセンリが微笑んでいる事が分かった。

何だかそれが悔しくて、マダラはセンリの下唇に舌を這わせた。途端に分かりやすくセンリの体が跳ねた。


「!」

しかし口を離したのはマダラからだった。センリの顔横についた手に力をいれてマダラは唇を離し、センリの顔を驚いたように見る。


『…?』


びっくりしたようなマダラの表情を不思議そうに見てセンリは少し首を傾けた。


「(甘い……?)」


これまで触れるだけの口付けしかして来なかったが、センリの唾液は微かな甘さを含んでいた。歯磨剤等ではなく、蜜飴のような微かな甘味だ。しかし直前にセンリは菓子を食べていた訳でもない。

不思議なその味をもう一度確かめたくて、マダラは再びセンリの唇に吸い付いた。口付けたままセンリの小さな上唇を舐めると少々強引に口に舌を割り込ませた。センリはマダラの襟首をぎゅっと掴んでいる。


『んん』



やはりセンリの口内は甘かった。センリの手がマダラを離そうと力を入れているのに気付き、ちゅ、というリップ音と共に唇を離した。センリの呼吸は微かに荒く、何故か悲しそうな表情でこちらを見上げているのでマダラはそれ以上の事はせずにもう一度優しく唇に口付けを落とした。


「…五日分。このくらいで勘弁してやる」


止まらなくなりそうだ。
マダラはそう思ってセンリの手を引き、体を起こした。起こしたセンリの首に手を回し再び抱き締める。センリの首は熱かった。これくらいで体を熱くさせてしまうセンリの成長とこれから付き合っていくのも大変そうだと思ってマダラは苦笑した。



『…マダラ』

「なんだ?」

『………恥ずかしい』

「そうか」

『マダラは恥ずかしくないの?』

「そういう件に関しては俺の方が勝ってるからな」

『……私もがんばる』

「そうか。大丈夫だ、俺が手取り足取り教えてやる」

『何か怖い笑い声が聞こえた気がしたんだけど』

「気のせいだ」

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