- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-固まりゆく里の地盤とうちはの石碑-


うちはの石碑を見てから少し日が経過した。


センリが朝、かじかんだ手を動かし洗濯物を外に干していると、突然目の前に人間の姿をしたカルマが現れた。前に会ったのは異空間だ。実に十年ぶりのカルマの姿にセンリは驚きを隠せなかった。

驚きながらも、久々のカルマにセンリは心踊った。川原の草の上に腰を下ろし、二人は話をした。


カルマの話によると、今現在はカグヤの呪いが弱まっている状況にあるとのことだった。


「もしかしたらこの呪いには縛りの強弱に何らかの循環過程があるのかもしれん。何が術の精度に影響しているのか分からぬが…」


との事だった。その為こうして人間の姿に実体化してセンリの中から出てこられたという事だ。


『呪いを解くことは出来なそう?私もちょっと調べたりしてみたけれど……』

「可能性がある事にはある、が……かなり危ない橋を渡る事になってしまうので、あまり勧めることは出来ない。現状としてあまり問題がないようならこのままでいる他ないだろう」


十年分にあった事をセンリは話そうとしたが、カルマは大方の事は知っていた。実体化出来なくともセンリの意思を汲み取る事は少し出来るらしい。長く続いた戦乱が終わった事も里を作り始めたこともカルマは知っていた。


そしてセンリは少し前に見た石碑の事を話して聞かせた。しかしカルマにも石碑の内容を変えた何者かに、思い当たる人物はいないようだった。

センリがいない間、この世界を見てきたカルマにも分からないということはそれは人ではないか、もしくはもう死んでいるか。どちらにせよ犯人は特定出来なかった。警戒しようにもそれが分からなければどうにも出来ない。その犯人がすでにこの世にいない事を願うばかりだった。


『あの石碑に気付かないでいたらと思うと怖いよ。あれは読んだ人に無限月読をさせようとしていた。それこそが世界を平和にするもののように書いて………』

「御主が石碑の内容を消したのは良い判断であったな。上書きされたと分かった以上、後世に遺しておく必要はないであろうからな。まあ……可能性があるとするならば、カグヤであろうが……」

『それは私もそう思ってた。確証はないけど…。でもとにかく石碑は消したから。もう誰も見る事はないと思う』


カルマはセンリの瞳をじっと見つめた後、深く頷いた。


「あのインドラの転生者…うちはマダラはその石碑を読んだのだな?彼奴は、なんと?」

『書き換えられてるって教えたら、驚いてたよ。でもマダラはちゃんと…平和を作り出すのは力だけじゃないって気付いてくれてる』


センリの笑顔には偽りがなく、普段表情を変えないカルマでさえつられて小さく微笑んだ。



『でも……まだカグヤやインドラ達のことは、話さない方がいいの?』

「ふむ…我もそれを考えていないわけではないが……如何せん、この地を生きる者達にとっては話が突飛過ぎるだろう?ハゴロモと御主の事は伝承になってしまっている訳だし…御主の存在が即ち“陽光姫”だと知られるのは…やはりかなりリスクがある。

それでなくとも、この時代でも御主の力は強大で、これからも人間達の間で知られていくだろうからな…」

『そうだよね…。そもそもカグヤだって、この星―――この地球の人じゃないんだよね?』


センリは何十年も前、初めてこの地の大地を踏み締めた時の事を思い出していた。カルマはまた頷く。


「その通りだ。この広い宇宙空間には、様々な星がある……ここもその内の一つだが、カグヤはこことは違う星から何か目的を持ってこの地へ来たのだと…我はそう考えておる」

『宇宙人ってこと?』

「そうだな…この地に生きる人間を軸に考えれば、そうなるのかもしれぬ。神樹の力を宿す事が出来る者など…通常であれば考えられんからな」

『でも、それがあったからこそ、この時代の術とか忍って存在が生まれたんだよね…』

「そういう考えも出来るな。術の範囲はかなり狭くなっておるようだが……」


カルマが言うと、センリは苦笑いを浮かべた。“範囲が狭い”と言っても、それでも普通の人間からすれば有り得ない行為だ。



『私も、この時代で――特にカルマがいなかった時は、印を組んだ方がやりやすかったし……そう考えると、本当にあの時のカグヤとの戦いはものすごい事だったんだね。もうこの先あんな戦いはしないと思うけど』

「御主と我の力は、主に対カグヤ用につくったものだからな…。この時代で使うのは、あまり望ましくはない」

『そうだね。そもそもハゴロモもハムラもカグヤいないから、あれ程力を出す事もないし、あんな風に力を出し続けてたらまた地球が壊れちゃうから…。柱間とマダラはかなりギリギリのとこまで行った時があるけど…』


センリは何年か前、マダラと柱間がスサノオと木遁で戦い合っていた事を思い出して、顔を引き攣らせた。


「あの二人はインドラとアシュラの力を多く引き継いでおるようだからな。先祖返りといったところか」

『柱間なんかは真数千手を一人で出せちゃうし、仙力―――仙術も一瞬で出せちゃうからね…』


真数千手を柱間が使ったところは一度しか見た事がないが、それはアシュラでさえ民の力を借りてやっと出したものだ。カルマの言う“先祖返り”は確かに妥当な表現に思えた。


そしてセンリはその事を話していて、ふと思い出したことがあった。


『あっ、ねえ、カルマ。ずっと聞きたかったんだけど………尾獣のみんなはどこにいるの?前に人間たちに心を閉ざしてしまったことは聞いたけど……戦争はもう無くなったし、会いに行けないかな?』


センリが気にしていたのはハゴロモと共に別れてから一度も会っていない尾獣たちについてだった。カルマは心配そうなセンリの表情を見て顎に手を当てた。


「ふむ………少し、アシュラの転生者の元に行けるか?この里の長になった」

『ああ、柱間のところ?』


カルマは小さく頷いた。センリは少し考えた後『大丈夫だと思う』と承諾した。もうそろそろ昼になる。二人は一緒に火影室へと向かった。


――――――――――――

「ん?この少年は誰ぞ?」


火影室に着いてセンリがいつものように部屋に入ると毎度の事だが柱間もマダラも扉間もそこに居たが、三人とも見慣れない人間がセンリの後に続いて現れたので少々面食らっていた。

柱間の前に立つとセンリの横に並んだカルマの姿を見て柱間が問い掛けた。


「我は不死鳥鳳凰だ。今の時代、この世界の人間達からは十尾と呼ばれているようだが」


柱間もマダラも扉間も、何も言わなかった。

突然現れた少年が十尾と宣った衝撃が数秒経ってから訪れた。何せ目の前に立っているのは年端もいかない、精々十三、四の少年。中性的な美しい顔立ちで、センリよりも背が低く、髪は同じ銀白色だ。

その衝撃の告白を確かなものにする証拠といえば、扉間が感知した事の無いチャクラくらいだった。確かに人間のものとは思えない、不思議なチャクラだ。
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