- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-消えた扉間の疑心-


無事に新しい年を迎え里の情勢の方もセンリが思っていた以上に早い速度で、色々な所に影響が出ていた。

火の国、木ノ葉隠れの里が出来たという情報は瞬く間に他国に広まりそれから程なくして一国一里システムがどんどん広まっていったのだ。


センリは火の国以外の国の状況などよく知らなかったので柱間やマダラたちから色々と教えてもらういい機会になった。

主要国は五つありそれぞれ、火の国木ノ葉隠れの里以外に、雷の国には雲隠れの里、水の国には霧隠れの里、風の国には砂隠れの里、土の国には岩隠れの里が生まれた。その中の忍の代表として一人がそれぞれ影の名を背負うことが出来る、忍の影が治める里システムだ。


その他にも数々の小国があり、次々と一国一里は浸透していった。柱間の妻であるうずまきミトは、渦の国の出身でありそこには彼女の一族たちが治める渦潮隠れも誕生した。


そこで、誰がどこの里の者かが分かるように隠れ里それぞれが自里の証の印をつけることにした。木ノ葉隠れの里のマークはその名の通り葉をモチーフにした印だ。発案はセンリと柱間だったが、その後葉の中にミトの一族の印である渦を巻いたマークに落ち着いた。渦潮隠れ里は木ノ葉隠れの里にとって一番最初の同盟里だったからだ。それに渦の国出身のミトは火影柱間の妻でもある。友好の証というわけだ。


木ノ葉隠れの里のマークが出来上がってから一週間もすれば忍の為の額当ても完成した。忍になった者は任務中などはこれ額に着けることになった。何故だかヒカク等は額につけるのを恥ずかしがって腰につけたりしていた。しかし体のどこか分かるところに着けていればいいらしい。これが定着すれば誰が忍びであるかが一目瞭然だ。とてもいい考えだとセンリは思った。


もちろんそれはマダラも同様で柱間から受け取った額当てをつけた姿はセンリの目に新鮮に映った。


『わあ、似合ってるよマダラ!』


センリは手を合わせてにっこりする。額当てを着けたマダラの姿はセンリには何だかかわいらしく見えた。


「…違和感があるな」


今まで無かった違和感にマダラは眉を顰めているがセンリが嬉しそうなので我慢した。

センリにとってマダラが木ノ葉隠れの里の印が刻まれた額当てをつけている事は重要な事だった。


それから一月を過ぎる頃には里への依頼任務も少しずつ増えてきた。それと共に忍達の任務も増え、もちろん同様に火影の仕事も増える。柱間は長時間椅子に座っての書類作成や確認が苦手なようでセンリが空いた時間に手伝い等に行くと決まって助けを求めてくるのだった。


「うう……もう限界ぞ…」

「終わったようだな。それじゃ次はこっちの書類確認だ、兄者」


疲弊しきった柱間が頬を机にべったり付けているとその目の前に扉間が見るからに重量感のある書類の束を置いた。ばん、という音がして柱間は絶望してその書類を見上げる。


「うう……休息が欲しいぞ……賭場でも出来れば少しはやる気が出るんだがな…」


柱間は山積みの書類を忌々しげに見つめた。


『とば?なにそれ?』


お茶を出しに来たセンリがお盆を抱えて聞きなれない単語に不思議そうな顔をする。


「賭け事をする為の場所の事ぞ」


柱間がのそのそと机に手をついて体を起こす。


『賭け事?…麻雀とか?』


賭け事と聞いてセンリは真っ先にパチンコが思い浮かんだが流石にこの時代にはまだ無いだろうと考えを変更した。


「それもあるが、半丁が主ぞ。何ぞ、センリは賭け事に興味があるか?それならオレが今度…」


興味深く聞いてくるセンリに気を良くした柱間が嬉しそうに言うが横の机で何か書き物をしていたマダラが鋭く顔を上げた。


「おい、柱間。センリに下衆な知識を吹き込むな」


柱間をキッと睨みつけるマダラ。その目は写輪眼ではないのに何故かちょっとした殺意を感じた。


「下衆とは酷いぞ…」


マダラとはあまり意見が合わない扉間だったがこの時だけは同じ気持ちだった。


「センリ、誘われても着いていくなよ」


マダラが言い聞かせるようにセンリに言った。


『大丈夫だよ。お金を賭けるのはあんまり好きじゃないからね』


センリの言葉にマダラは勝ち誇ったように薄く笑みを浮かべて柱間を見やる。



『お金賭けなくていいっていうなら行くよ、柱間………。でも柱間が賭け事好きだなんて知らなかったなあ』


センリは書類をチラチラと確認し始めた柱間を見て呟いた。


「賭博は楽しいぞ。何にも考えずにその時間を楽しむだけでいいんだからな」


その言葉にセンリはふと思った。もしかしたら柱間は戦争中の時からそうしてたまに休息として賭け事をしてきたのではないか、と。


「賭博をするのは勝手だが今は手を動かせ兄者。あと頭もな」


扉間が柱間を見もせずに手元の書類に言う。


『扉間くんは相変わらず厳しいねえ。もし大変なら私も手伝うよ?』

「柱間を甘やかすなセンリ」


センリが言い終わるとそうそうに今度はマダラの声が飛んできた。


「優しいのはセンリだけぞ……」


柱間が泣きそうになってセンリを見上げる。その捨てられる寸前の子犬のような瞳にセンリは困ったように目尻を下げた。


『マダラと扉間くんは厳しいけど柱間を思って言ってるんだと思うよ。みんな柱間を応援してるよ、頑張れ!柱間は出来る子だ!』


グッと自分の手を握って柱間に向けるセンリ。柱間は目を潤ませながら頷く。


「うう、センリが近くで応援していてくれれば頑張れる気がするぞ…」

「馬鹿なことを言うな兄者」


柱間の願いはすぐに扉間に却下された。センリは苦笑いする。


『んん、とにかく私に出来ることがあれば言ってね』


センリが柱間を慰めるとマダラがフン、と息を吐いた。


『じゃあ、私はこれから浅葱くんと遊ぶ約束してるから行くね』


自分の息子と遊ぶために火影室を出ていくセンリを名残惜しそうに柱間は見ていた。ぱたん、と戸が閉まる虚しい音が小さく響いた。柱間は絞り出すようにため息を吐いて嫌々書類と向き直った。


「毎日センリが家で待ってくれているなんてマダラが羨ましいぞ」


書類に自分の印鑑を押し付けながら柱間が小さく言った。マダラは筆を書類から離し少し目線を上げて柱間を見た。


「お前も家で待っている奴らがいるだろう」


しかし柱間は今日何度目かのため息を吐く。


「ミトはこのところオレに厳しくてな……癒しが欲しいぞ…」

「兄者が浅葱に賭け事を教え込もうとするからだろう」


扉間の言葉に柱間はうっと息を呑む。それはそうなるだろうとマダラは呆れた。


「一日センリを貸してくれたら回復するぞ」

「ふざけんな。誰がテメェなんかにセンリを貸すもんか。早く休みたければさっさとその仕事を片付けるんだな」


それから柱間は何度か一人でうーんうーんと唸ってはいたが日が沈む頃にはその日の仕事を全部片付けたのだった。

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