木ノ葉隠れ創設編
-消えた扉間の疑心-
それからの生活はこれまでとはあまり変わらなかったが、センリにしてもマダラにしてもお互いの感情がより深くなったことは確かだった。
あと二年待つという言葉をマダラは受け入れた。それまでは恋仲という事になるのだろうかと考えてマダラは自嘲した。まさか自分がセンリとこんな関係になるとは思ってもいなかった事だが悪くはなかった。
二人とも表立って言うことはしなかったが勘が鋭い里の者……ミトや、それからイズナは二人の関係が変わったことにいち早く気付いた。
イズナ何かはアカデミーでの仕事帰りに商店街で二人に会ってすぐに勘づいた。
「やっとか。待ちくたびれたよ」
イズナは半ば呆れたようにそう言って胸をなで下ろしていた。
『やっとかって…』
意味ありげな物言いにセンリは不思議そうにイズナを見上げた。
「ずっと一緒に暮らしてきて気づかないわけないだろ?何にも知らずに過ごしてたのなんて姉さんだけだよ」
ため息と共にイズナが言う。まさかマダラの気持ちにも、自分でさえ長らく気づかなかった気持ちをイズナが見破っていたと思うと途端に波のように恥ずかしさが込み上げた。
『そっ、そんな、』
弟だと思って接してきたイズナに何もかも知られていたセンリは助けを求めるようにマダラを見た。
「…あれだけ分かりやすかったらセンリでも気づくと思っていたんだが……」
マダラはこれまでもセンリに好意を寄せて、行動に移してきたつもりだったのだ。
「姉さんの鈍感さが人並外れてるってことはよく分かった。まあ、二人がそうなってくれてボクは嬉しいよ。時間がかかり過ぎた気もするけど…やっと心配事せずに仕事に行ける」
女性的な唇が弧を描き、イズナの頬には満足そうな笑みが刻まれている。何だか安堵したような弟の顔を見てマダラも少し微笑んだ。
「じゃ、ボクはこれからヒカクと会うから、また」
イズナはそう言って二人に背を向ける。団扇の家紋が夕陽の光に当たって赤らんで見えた。二人が帰る方向とは逆方向に歩いて行くイズナの背中をセンリはしばらく見ていた。
『……なんかイズナ、大人っぽくなったね』
イズナの小さくなる背を見つめながらぽつりとセンリが呟いた。
「お前がいつまでもガキっぽいからそう見えるんだろう」
マダラはそうは言ったが、確かにイズナに関しては今までとは少し変わった気がしていた。自立していく弟を見るのは兄として少し嬉しくもあった。
イズナは数ヶ月前とは違い、戦中の時より一族にこだわることが無くなった。一族を何よりも第一に考えていたイズナだったが、子ども達に教える様になってからは少し考えが変わった様子だった。学校ではどの一族にも対等に接し、うちはを贔屓しているという事も聞かない。それどころか個々を尊重する方針の教え方で父兄からの評判も良いそうだ。最初はあのうちはの者だと倦厭されていたがものの数週間でそれは覆すほどイズナの影響は大きかった。
それはイズナの自立を意味していたし、イズナのお陰で里からのうちはに対しての警戒もなくなっていているのも現実だった。事実、マダラとイズナ、それからセンリが里のために尽くしているのは皆分かっていた。この三人のお陰で今うちはは保たれているようなものだった。
『これからもイズナを応援しようね』
何を考えていたのかセンリはマダラを見て母親のような表情をした。マダラは慈愛に満ちたその瞳を見返した。
「そうだな」
弟が新しい道を見つけてくれたようで、センリとしては誇らしくも思いながら遠くの角をイズナが曲がって見えなくなるまでそれを見つめていた。
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