- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-重なり合う愛-


その日は柱間にゆっくりしろ、と言われた為、マダラは火影邸には行かずにセンリと共に過ごした。センリは何やらやりたい事があったようでマダラと共に部屋の模様替えに勤しんでいた。

センリは『前に柱間から貰った木遁のチャクラを使える』などと言い、居間を畳の和室からフローリングへと変える芸当をしてみせた。そしてちゃっかり柔らかそうなソファーとこたつも出現させた。長方形のこたつの両側に、三人掛けのソファーが向かい合っている。

広過ぎるかな?というセンリの独り言通り、これならマダラとセンリの二人どころか、ちょっとした宴会にでも使えるのではないかというくらいである。しかし元々家自体が広かったので、有効活用という意味ではかなりいい状態なのではないかとセンリは思っていた。

相変わらずセンリの突拍子もない滅茶苦茶な能力に多少驚きつつも、家具を購入する手間も省け、それに今日が休みということもあり、センリの嬉しそうな表情を見ると、これは二重で柱間に感謝しなければならないなとマダラは苦笑した。


「なるほど炬燵か。床は畳より堅いが…これの座り心地はなかなかだな」


畳に親しんできたマダラもソファーの体を包み込むような座り心地に感嘆したようだ。柔らかさも大きさも申し分無い。センリは安らいだようなマダラに安心した。我ながら良い力があるものだとセンリは一人喜んだ。


『これに座りたかったんだよね!何十年ぶりかのふわふわソファー…!』


しかしセンリにはもうひとつマダラに頼み事があった。


『あとね、マダラ。もう一つお願いがあるんだけど』


センリは偉くソファーを気に入っているマダラを見やる。「なんだ?」と言って上機嫌なマダラは自身の前に立っているセンリを見上げた。


『あの……ベッドを置きたいんだけど…いい?』


ベッド、というのはもちろんマダラも知っているがそれはいいとして何故かセンリは恥ずかしそうに視線を泳がせている。


「寝台か。別に部屋ならイズナがいなくなって余っているから、好きにすればいい」


マダラは快諾したが、センリは唇をもごもごさせた。


『えっと、あの………マダラと一緒がいいの。ベッドなら大きく作れるし……その…ダメかな?』


なるほどそういう事か、と思い、センリの申し訳なさそうな態度にマダラは苦笑した。そんな事、聞かなくたって分かるだろうと思ったが、やはりセンリの鈍感ぶりは並外れている。


「何だ、一人で寝るのが寂しかったのか?」


イズナがいなくなってからも別々の部屋で寝ていたが、それざセンリは少し寂しかったのだ。

意地悪そうなマダラの笑みにも、素直にこくりと頷くセンリ。段違いの鈍感だが、センリの正直なところはマダラも好きだった。


「もちろんいいさ。毎晩一緒に寝てやる」


マダラの返事を聞いた途端笑顔になるセンリ。かわいい奴だとマダラは笑った。


『ほんとに?良かった!じゃあ早速作ってこよーっと!大きくするね!そしたらマダラ、こたつ布団とベッド用の布団買いに行こう?』


きらきらと音が出そうな勢いで笑うセンリにマダラが返事をすると、そのまま早速部屋にベッドをつくり出しに去っていった。足音で気分の良さが分かってしまう。


「(あいつ………意味分かって言ってんのか?)」


一緒に寝るのはもちろんいいが、マダラは少々心配な事もあった。


「(ま…もうしばらくお預けか)」


少しの間自問自答したが、結局センリの純真な瞳を思い出し、マダラはため息をついた。


戻ってきたセンリと商店街に繰り出し、布団類を探せばすぐに見つかった。始終センリは楽しげで、マダラが知らないうちに店々の人と仲良くなっていたりしていて、そんなところも相変わらずだと少し呆れた。もちろん二人は白と黒のマフラーをその首に巻いていた。


センリと一緒にいるとおかしなくらい時間が早く過ぎていく。道を歩いて会話しているだけなのに驚く程の時間が過ぎていくのだ。マダラは不思議な感覚を覚えながらも、久しぶりのセンリとの時間を存分に楽しんだ。

―――――――――――――

その日はあっという間に過ぎ去って、瞬く間に空は暗くなった。センリは寝る時間になると昨日泣いた事が嘘のように楽しそうにベッドにダイブしていた。

『わああ、ベッドだ!すごい、ひろーい!』


ぼふ、という音を立ててベッドはセンリの重みに微かに上下した。ベッドはセンリが両腕を広げてもまだまだ広さがある。マットレスはそこまで柔らかくはなく、しかし体を包み込む丁度良い硬さだった。センリは久々のその感触にごろごろと動き回った。


「本当にお前はガキみたいだな」


はしゃいでいるセンリを、電気ストーブに当たりながら振り返って、マダラは軽い微笑を右の頬にだけ浮かべた。無邪気なセンリはまるで自分より何十年も生きているとは思えない。

センリはベッドの上で転がっていたが、幾分かするとうつ伏せになり動きを止めた。


『………』

「…?」


突然動かなくなったセンリを不思議そうに見やるマダラ。するとセンリは顔だけをマダラの方にくるりと向けた。


『なんか眠くなってきた』


少し眠たげにゆっくりと瞬きをするセンリを見て、そんな事だろうと思っていたマダラはあまりにも自分の想定内で思わず失笑した。


『寝ようよ、マダラ』


腕をついて上半身を起こし、センリはいそいそと布団に潜り込む。その様子を見てマダラはストーブの電源を落とし、部屋の電気を消した。

センリが先に入った布団に足を入れれば冷たい布団の温度が伝わった。センリはこちらに背を向けていてまさかもう眠ってしまったのかとマダラは手を付いてセンリを上から見た。薄明かりの中、センリは目を開けていたがやはり眠たそうだった。


『ねえ、マダラ』


静かな空間にセンリの小さな声が響いた。マダラは「何だ?」と聞き返す。しかしセンリは壁の方を向いたまま声だけが聞こえてくる。


『あのね、言おうかどうか迷ってたんだけど』


先程とは一転して真剣なセンリの声にマダラは肘をベッドについて頭を手で支え、暗闇に見えるセンリの後頭部をじっと見つめた。


「どうした?」

センリはすぐ後ろから聞こえるマダラの声に一呼吸置いてからぽつりぽつりと話し始めた。


『私、カルマの力で成長しないし、死なないでしょう?お腹は空くけど、用を足すこともないし、歳を取ることもない。それに心臓を刺されたって死なない』

「ああ、知っている」


今更何を言い始めるのかと思ったら不老不死を気にしているのかとマダラは早めにその声に言葉を返す。


『それでね、前にカルマが言ってたんだけど………私が誰かと結婚すると……夫婦になると相手もそうなっちゃうんだって』


センリの言葉の意味を理解するのには幾分かの時を数えた。


『カルマの力自体は私に留まったままだろうけど…お互いに歳をとらない体になる。どの程度死なない体になるかは分からないって言ってたけど……。少なくとも歳をとることはなくなるんだって』


センリの言葉を頭の中で繰り返して理解する。
そんな出来た話があるのだろうか。自分がセンリと夫婦の契りを交わせば永遠に共に居られるというのだ。こんな上手い話は何か裏があるのではないかとも思ったが、センリはどうやらそうではないらしい。


「そうか………お互いに歳をとらないというのなら何をそんなに悩んでいるんだ?」


センリは真実味のない話をマダラが受け入れた事に、そしてそれが何でもない事だというような口調に驚いてマダラの方に頭を倒して向ける。暗くてあまり分からなかったがマダラはいつもの表情のように見えた。


『だ、だって死なないんだよ?成長しないし、何十年も生きるんだよ?』


センリはもぞもぞ動いて体ごとマダラの方に向いた。少し体を起こして眉を下げてマダラに言う。センリの必死な声にマダラに疑問の泡がふつふつと沸いてくる。


『不死になるってことは………みんなが死んでいくところも見なきゃいけないってことだから』


センリの静かな声に、マダラの疑問の泡は鋭い針が突き刺さって弾けて消えた。

もしマダラと夫婦となり不死になる事はセンリにとったら嬉しい事。マダラが一人で闇に走りそうになっても止める覚悟もある。


しかしマダラにとってはどうなんだろうとセンリは考えていた。不死になれば人々が死んでいくのも、時代が変わるのも全て見ていかなければならない。センリは悲しい思いも数多く体験してきた。マダラが不死になり、その悲しみを受けなければならないと思うとセンリはやはり悩んでしまうのだった。


『今度はイズナも………それから柱間だって……』


直接的な言葉ではなかったがセンリの言いたいことは分かった。次にイズナがもし命に関わることになってもセンリはもう一度生を与える事は出来ないし、友が死んでいく様も嫌でも見なくてはならないということだ。

センリは本当に悩んでいるように瞳を伏せていたが、マダラにとっては大きく心を揺るがすことでは無かった。

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