木ノ葉隠れ創設編
-火影と側近-
「ああは言ってるがお前がいなくなったらセンリは寂しがるだろうな」
マダラが言うとイズナは困ったように笑った。
「その為に兄さんがいるんだろ?二人がまだくっ付いてないのには驚きだよ」
イズナの言葉にマダラが驚いたように瞬きをする。少し惚けたような、兄にしては珍しい表情だ。
「姉さんが成長しない、死なないって事とか…もしかして気にしてる?」
イズナが問いかけるとマダラ「いや…」と言葉を濁した。
「兄さんはそういう事気にしないと思ってたんだけどな…――まさか、姉さんの気持ちに気付いてない訳じゃないよな?」
イズナは語尾を強調しながらマダラに問いかけた。自分の家族が誰を想っているのかなど、一目瞭然のはずだ。
「それは――まあ…」
イズナから見ればセンリがどのくらい深く兄を愛しているのか――またその逆も然りだが――それが断定出来るほど自信があった。だがマダラはまだ踏ん切りがついていないようだった。
イズナは小さくため息を吐いた。
「早くしないと姉さん、誰かに盗られるかもしれないよ。ボクは、姉さんの相手は兄さん以外は認めないからな」
少しいたずらっぽくイズナが言った。案外押しが強い所があるイズナは、こういう時はマダラより思い切りの良さを発揮していた。
「まあ…それもそうかもしれねェが――」
未だに確定的な口調になれずに口ごもるマダラを見て、イズナは困ったように笑い小さく息を吐いた。
「兄さんって…―ホント“姉さんか、姉さん以外か”だよな。女になんて不自由しなかったのに、相手が姉さんとなると途端に及び腰になるじゃないか」
「あいつ相手に手荒い対応なんか、出来るわけないだろ」
「へえぇ、じゃあ今までの女達は雑に扱ってたんだ」
イズナが少し意地悪げに言うので、マダラは眉を下げた。からかっているような弟に対して言い返したいが、全くの事実なのでそれが出来ない。
「あれは…――あれは、向こうから寄ってきただけだ」
「ふふ、随分弄んできたんだ、兄さん。まあ……本当に欲しいものの方が、より手に入れるのが難しいって言うからね」
性格が違えどそこは兄弟。兄が今までどんな行動をとっていたのか、イズナには手に取るように分かっていた。
「――でも本当に、きちんと姉さんには伝えた方がいいと思うよ。姉さんなんて、物凄い直球勝負じゃないと分からないと思うから」
マダラはその言葉には心から同調していた時、遠くからセンリの声が聞こえた。
『
イズナー…!』
どうやらイズナのことを呼んでいる。服について何か分からないことがあったのだろうか。イズナは意味ありげにマダラに笑いかけて部屋を出て行った。
「(直球、か……)」
イズナはマダラの気持ちにいち早く気付いていた。今回家を出たいと言ったのは大部分が兄の為だった。どうしたものかと思っていたところ丁度よくアカデミーの話が上がってきたのだ。受けない理由は無かった。このチャンスをイズナは逃したくなかった。
今度はマダラがため息を吐く番だった。
このところ里づくりで忙しく、その手の事は詳しく考えていなかった。長く続いた戦乱は次々収まり、里で過ごす中でセンリが自分の一番近くにいるのは当たり前の様に思っている節があった。しかしイズナの言う事も分かる。考えずともこれからのセンリの人気など容易く想像出来るし、直球でないと伝わらないというのも正に事実だ。
だが自分が柱間の手伝いとして業務をこなしている間センリと離れ離れでも家に帰ればいつも同じ笑顔で迎えてくれるし、自分がいない時の様子だってきちんと話してくれる。
そういうセンリに甘えていたところもあったのかもしれない。センリの一番近くにいられるのは自分だけだと…そう思いすぎていたかもしれない。
戦争が終わったら、終わったら、とはいつも考えていたはずなのにいざ平和になってみるとそれはそれでどうしたら良いのか迷ってしまうところもあった。
センリとの今の関係を壊したくない、という思いが、マダラの心の根底にはあった。だがマダラの心の大部分を占めているのはやはり“センリの特別になりたい”という願望だった。
「(………)」
今回のイズナの引越しで、マダラの頭にはセンリとの関係を今一度深く刻み込むこととなった。
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