- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-ただの友、師弟、夫婦、微かな予感-


「す、凄かったですセンリさま!速過ぎてオレ、全っ然見えなかった!」


僅かも息切れの無いセンリを見上げて瞳をキラキラとさせながら興奮冷めやらぬ様子でヒルゼンが捲し立てる。

「初めてセンリ様の忍組手を見ました…。本当にお強いんですね…!」


修業に付き合う事はあれど、本気の組手を見せた事は今まで無かったので普段どちらかというとクールなコハルも信じられないという笑顔だ。

組手には負けたが、本当のセンリの実力を子ども達も理解したようで何故か扉間は嬉しかった。



「しかし…お前は写輪眼ではないのに本当に見切りが早いな。まさか、読めていたのか?」


ワイワイと興奮している子ども達に囲まれているセンリに近付き扉間は感嘆したような諦めにも似た溜め息を吐いた。しかし子ども達は何が何やら分かっていないようだった。


『ん?ああ!さっきの。扉間くんが投げたクナイは飛雷神のマーキングが施してあったけど、あれはフェイクでしょ?本当のマーキングは最初に投げて地面に突き刺さったクナイにしてあった。だから攻撃をしながらその場所までさり気なく移動させて…投げるクナイにわざとマーキングがしてあるのを見せて、そこに飛ばせると思い込ませて…私の足元のクナイに飛ぶ…っていう算段だったでしょ!』


扉間は無意識に微笑んでいた。まさにその通りだったからだ。センリは写輪眼ではないが、瞬時にものを見極める能力はかなり高いものだった。

それを分かっていたからこそ扉間は投げるクナイのマーキングをわざとギリギリ察知できる程度に見せ、そこに飛ぶと思わせ、実際は地面のクナイに飛ぶ――まさにそのつもりだった。


『扉間くんならクナイのマーキングを敵に見せるなんてヘマしないだろうから変だとは思ったんだよね!』


子ども達が感心した様に頷きながら聞いた後センリははにかんで言った。


「クナイにつけられた飛雷神のマーキングを見破るなど、うちはの者でもなかなか難しいというのに…お前、もしや写輪眼を開眼しているのか?」

扉間は少し呆れたように、そして少しだけ唇を持ち上げながら言った。ずいぶんと気軽に冗談を言ってくれるようになったものだと、センリは悟られぬように笑った。


『知らないうちに開眼しちゃってたかも。最強の写輪眼』

「それはホントですか!?」

『ごめん、トリフくん、冗談だよ』


トリフの瞳の輝きを見ながら、センリは軽やかに笑ってその頭を撫でた。
しかし、あの一瞬でそれを理解して行動に移せるセンリにはやはり何度戦っても勝てない。負けたというのに清々しくも思える気分が可笑しくて扉間にとって奇妙だった。


「センリ様は先程扉間様の水遁を氷に変えていましたが、あれは氷遁なのですか?」


やっとセンリの実力を信じ切れたダンゾウが興味深そうに問い掛けた。


『うん、そうだよ』


センリが答えるとダンゾウがほう、と瞼を上げる。眉が上がり、重たげな瞼が開かれ、突然年相応の表情になったダンゾウを見てセンリは笑いかける。


「では、センリ様は雪一族なのですか?」

『雪一族…?』


聞き覚えのない言葉にセンリは不思議そうに首を傾げる。


「雪一族というのは氷遁を使う唯一の一族だ。あそこの一族はあまり数が多く無いからな。多分うちはとは戦った事がないのだろう」


分かっていないようなセンリを見て扉間が説明する。

『へえ〜、初めて知った!でも私は雪一族じゃないよ』


氷遁はかなり稀…というより血継限界というものだとマダラが教えてくれたのでセンリが使える事をダンゾウは不思議に思ったのだろう。


『(氷遁はカグヤ…というより神樹の力だからもしかしたらカグヤやハゴロモの血筋なのかな?)』


センリは一瞬考えたがダンゾウはまだ聞き足りないようにソワソワしていた。


「雪一族でないのに氷遁が使えるのですか?それに…火影様の木遁のようなものも」


戦国時代、戦争に出た事が無いダンゾウが柱間の木遁を知っている事にセンリは関心したが、それも違うと首を横に振った。


『私のは木遁じゃないんだ』

「そうだったのですか?」


ヒルゼンも驚いたように目を丸くさせた。


『柱間は何も無いところから生命を作り出せるけれど、私は違うよ。地面の中に元々ある植物を急激に成長させてるって感じかな。水遁使いの人が水のある所でそれを使うと量が多くなるのと同じようなものだよ』

そう言ってセンリが手の平を地面に向けると先程からの様にそこから細い蔦が伸びてくる。その蔦の所々には見た事の無い形をした白い花が咲いている。ダンゾウの暗い瞳が一瞬煌めいた。


「でも生命を操れるって事ですよね?それってかなり珍しい事なのでは?それに印も組まずに、どうしてできるのですか?」


まだ感動し足りないようなダンゾウはセンリに質問攻めだ。


「ダンゾウ、興奮しすぎだ」

扉間の言葉にダンゾウはハッとして我に返る。ダンゾウは強さに興味があるのかと思ってセンリは幼い頃のマダラを思い出した。


「す、すみません…」


しゅんとしてしまったダンゾウの頭にセンリは手を置く。


『見た事ないものに興味が湧くのは当たり前だもんね。…扉間くん、私も一緒に修業していい?』


センリの提案に扉間は「もちろんだ」と頷いた。ヒルゼンとカガミが途端に嬉しそうな表情になる。


「センリさま!火遁の術を見て下さい!この間より上手くなったんですよ!」

「オレだって豪火球出来る様になったんです」


右手をヒルゼン、左手をカガミに握られながらもセンリはいつものようなあたたかい笑みを向ける。

『任せて!』


センリが修業に参加する事はここ最近無かったので嬉しそうな顔の弟子達をみて扉間も無意識に顔が綻ぶ。


『ほら、ダンゾウくんも、おいでよ!』


明るい雰囲気に慣れていなかったダンゾウが一人立ち竦んでいるとセンリが手招きした。


「は、はい」


まだ訳が分からないというダンゾウは驚いたような顔をしていたが、その雰囲気に身を任せてみると案外気が楽なものだった。

センリが差し入れを持ってきたのは午後三時だったが、そこから日が暮れるまで子ども達と修業に励んだ。


その日の修業が終わると、今度はヒルゼンとカガミと一体一で修業を見るという約束を交わし皆と別れた。子ども達にとっても、センリにとっても、それに扉間にとっても、それは大事な約束で、大人子供関係なく力を高め合えるということは思っている以上に重要な事だった。
[ 84/230 ]

[← ] [ →]

back