- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-不死になった夫、捧げる愛-


『それは違うよ』


話を聞いていた忍達を一人一人見つめるセンリの表情は穏やかで、皆が昔から知る笑顔だった。


『それはみんなが、優しくしてくれたからだよ。突然現れた私を一族に置いてくれて、たくさん話してくれて、優しくしてくれたから…だから私もそれに同じように応えたんだよ。それに…うちはの人達は人一倍一族に対しての愛が深いんだなあって……それって自分の事じゃなくて、家族を、一族の仲間の事を想ってるからでしょ?』


いつもの調子で、ゆったり語るセンリの表情は柔らかく、聞いていた忍達は何故か懐かしい気持ちになった。マダラと同じ世代のうちはの忍達は幼い頃をセンリと共に生活してきて、センリから影響を受ける事も多くあった。

厳しい修業、それに一族の大人達。その中で唯一センリだけは優しく接してくれていた事を思い出し、涙ぐむ者もいた。

偽りの無い、綺麗事ともいえるセンリの優しさは自然と心に抵抗無く染み渡る。


すると酒を呑んでいる事もあり感慨深くなったくの一の一人が目を潤ませ、泣き出してしまった。


『あらまあ…キナミってば』


動揺する事もなくセンリはキナミの隣に行って震える肩を抱いた。普段子どものように天真爛漫なセンリだったが、いつもここぞという時には母性や実力を発揮する。


「修業が辛くてやめたくなった時も…父が死んだ時も……センリさんが居てくれたから全部乗り越えられたんです…だから、今センリさんと一緒にこの里で、センリさんの結婚のお祝いを出来るなんて…ヴヴ……嬉しくて…!」


ところどころ鼻を啜りながら涙目でセンリに感謝の気持ちを述べるキナミの頭を撫でてぎゅっと抱き締める。

キナミはイズナと同い歳でここまで残っている数少ないくの一の一人でその中でも特にセンリに懐いていた。憧れの存在でもあったセンリの幸せを共に祝えるのはキナミにとっても本当に喜ばしい事だった。


『私もみんなに祝ってもらえて、本当に嬉しいよ……ほらほら、可愛い顔が台無しだよ』


涙でぐしゃぐしゃになってしまったキナミの顔を覗き込んでセンリは袖でその涙を拭く。


『ほらキナミ……いくよ、見て!』


中々涙が止まらないキナミを見てセンリは、顔を手のひらで挟み、左右から思い切り潰した。美しい顔が突然左右から押し潰されまるで面妖になったセンリの顔を見てキナミは一瞬目を見開いたが、すぐに吹き出した。


「センリさん、それは…やめて…!」


込み上げてくる笑いをどうにか抑えようとキナミは必死だったが、耐えられるはずもなく開いた唇の隙間からだんだんと笑い声が漏れ出る。
キナミはセンリの変顔から何とか顔を逸らそうとするがセンリはそれを追ってしつこく見せ付けてくるので可笑しくなってしまい、ついには腹を抱えて笑い出した。


『どう?おもひろひ?』


センリがその顔でイズナ達の方を見るとやはり数人が吹き出した。普段の秀麗さと掛け離れすぎてその落差には笑わざるを得ない。


「センリさんは昔からそれ、やりますね」


センリは皆が笑い出すのを見届けてから手を離し、笑いを何とか抑えたキリトが呼吸を荒くしながら言った。
センリはこうして昔も泣いていたり落ち込んでいたりする子どもを笑わせていた。


「姉さんほんと…美人なんだからそういうのやめろよ」


笑いが収まりふう、と息を吐いて半ばぐったりしながらイズナが言う。


「まあ、それがセンリさんのいい所、だろ……くくく」


ヒカクはまだ笑いが止まらない様で腹を痙攣させながら手で顔を覆ったままだ。

イズナは相変わらずのセンリに呆れていたが、外見を気にしないその陽気さに助けられた事は多々あった。マダラでさえヒカクの言葉に大きく頷き、同調した。美しい見た目を気にもとめていないところもセンリの好きな点だった。


『これ見るとみんな絶対笑ってくれるからさ!…さあさあ、みんな、しんみりしてないでもっと食べて!呑んで!』


周囲に漂っていた少しの悲しみはもう消え去り、皆の顔に笑みが戻ったのを確認したセンリは酒や食べ物を勧めながら揚々と言った。


「これじゃ明日の仕事に遅れそうだ…」


誰かが呟くとセンリはにっこりした。


『大丈夫大丈夫!明日の任務に遅れたら柱間には私のせいだって言えばいいよ!』


センリの笑顔と澄んだ声は心に染み渡り、そして何故だか体の奥から満たされたような感覚になる。
光の巫女が一族に居てくれて良かったと、酒の入ってぼうっとしてきた頭の片隅で考えながら、うちは一族の忍達は愉快な宴だけに身を預けた。
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