- ナノ -


木ノ葉隠れ創設編

-はじめてを、ぜんぶ-


「考え事でもしていたのか?」


台所の後ろのテーブルの椅子を引いて腰掛けながらセンリに問い掛ける。この時間にセンリがぼんやりしているなんて珍しい。センリは濡れた手を前掛けで拭きながら少し困った様な笑みを浮かべた。


『うん、ちょっとぼーっとしちゃってた。今日、朝ごめんね。起きたらマダラいないし…すごくびっくりしたよ。十時だったんだよ!』


本当に驚いたような顔をしながらそれがとても重要な事のように言うのでマダラはふ、と笑った。いつもセンリが自分より早く起きて色々準備してくれているのは知っていたので、たまに遅くまで寝ていてもいいんじゃないだろうかと思った。


「あまりに気持ち良さそうに寝ていたから起こさなかったんだ。それに…昨日少し無理をさせてしまったからな。体は大丈夫か?」


そう言うとセンリは分かりやすく目を開いて視線を逸らした。


『う、うん。もう大丈夫だよ』


もう、という事はやはり今までは痛みがあったのか。センリの事だから体の痛みは他の人より早く回復するだろうが…。

照れた面持ちではあるが、心配かけまいとセンリがそう答えた事は分かっていたので、マダラは立っているセンリの手を取り引き寄せて腰を摩った。そして自分も医療忍術でも使えればよかったなとふと思った。心配そうに眉を寄せ自分の腰をさするマダラを見て思わず口元が緩む。


『ありがとうマダラ。でも嬉しい痛みだもん、大丈夫だよ』


やはりセンリには敵わない。
男の欲でさえ綺麗な笑みを浮かべて受け入れられるなんて、本当に女神だろうか。頭の中はどうなっているのか覗いてみたい。

心底幸せそうなセンリを見てマダラは椅子に座ったままその体を抱き締めた。下着に締め付けられていて昨晩のような柔らかさではなかったがセンリの胸に顔を埋めると石鹸のような、甘味のような不思議な匂いがした。


「お前は本当に、愛い奴だな」


胸から目を上げるとセンリの美しい顔がすぐ側にあって柄にもなく心臓が音を立てた。心臓に悪いとはこの事か、等と妙な事を思っているとセンリの目が優しく垂れた。センリが時々する、子どもを見る母親の様な慈しみを込めた瞳だ。

この顔を見るとどうも、未だに子ども扱いされているような気がして少し悔しい。大人になってからはセンリより余裕があるような気がしているのに、ふとした瞬間やはり何年も生きているだけある器の大きさが見える時がある。


『叩き起してくれてもよかったのに。柱間のところ、遅れなかった?』


自分がそんな表情をしているだなんて気づいてもいないだろうセンリがいつもの調子で言った。


「別に柱間の事なんざ気にしなくてもいい。それにたまには遅くまで寝ていたっていいんだ、お前は。朝飯くらい自分でも何とかなる」


正直なところセンリにはたまには朝もゆっくりしていて欲しかった。朝も早く起きて家事に追われ、加えて週に何度かは弁当を作ってくれている。

日中も影分身や分裂体を使いながら里外の任務やら手伝いやら、里の人々の手伝いやら…忙しく過ごしているセンリは、自分より苦労してるのではないかとマダラは少々心配だった。

働き者のセンリは疲れている表情など見せないが疲労だって貯まるだろう。腕を回している腰は少し力を入れたら折れそうなくらい細いのに、よく一日中働けるものだとマダラは感心した。

しかしセンリは微笑んで首を横に振った。


『大丈夫。慣れてるし。それに、朝マダラの顔見れないの寂しいから』


こういうセンリの清い心はマダラの好きな所の一つだったが、やはり無理してるのではと思ったのが顔に出てしまったのかセンリは続けて口を開いた。


『じゃあ、今度はマダラも一緒に朝寝坊しよう。休みの日の朝は』


にっこりとはにかむセンリは結局のところ純粋なのだ。センリ自身はそれをわがままだと言うのだろうがマダラにとってはセンリの小さな願いはなんでも叶えてあげたいという愛おしい対象にしかならない。


「お前がそう言うなら毎日だってそうするさ」


センリの腰に回した腕に少し力を込めて言うと見上げた先にある整った顔が焦った様に歪んだ。


『ま、毎日じゃなくていいよ!』


こうして自分の言う事を何でも間に受けるところもマダラの中の愛心を擽る。無意識に笑みが広がってしまうくらいだ。

今度から休みの日があればセンリと一緒に朝寝坊をしようと考えるだけで何故だか心臓の辺りがじんわりと温かくなっていく。

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